誓いの正体②
「マコト、刻印がある方の手を出せ」
「うん」
ヴィクターに言われるがままに手を差し出すと、薬指を掴まれて本の裏側にはめ込まれた。
その隣の同じ隙間に、ヴィクターも自身の薬指をはめこむ。
瞬間、本が薄く発光する。
その様子に全員で目を見合わせて、私たちは解呪の書を覗き込んだ。
「今、何したの?」
「書の更新だ。裏側にある窪みに聖女と勇者の薬指をはめると、書が更新されるようになっている」
(書の更新……)
ヴィクターが解呪の書を開く。
相変わらず白紙ばかりの書の1ページ目。私も目にした地球の絵のページだ。
その次から最後のページまで、さっきは白紙だった。
けれど、ヴィクターが捲ったその先には森を歩く私とヴィクターの絵があった。
「ネヒリスへ会いに行く私たちの姿……?」
「だろうな」
「すげぇ……」
隣のページにはネヒリスのごちゃごちゃとした小屋の中が描かれていて、やっぱり解読できない文字が記されている。
「なんて書かれてるの?」
「おおよそ、俺たちの行動通りだ。ネヒリスの家へ行き、共に旅をすることになったことが長々と書かれているな」
「おい、次捲れよ」
ネヒリスに急かされてページを捲ると、そこには聖女に傅く勇者の姿が描かれていた。
そして、そこには大きく刻印の絵も描かれている。
「これだな」
確かめてみると、2つ描かれた刻印のうち、1つはヴィクター、もう1つは私の手の甲のものと一致した。
「私はヴィクターに何を誓ったの?」
「そうだな……」
ヴィクターは本に目を走らせて、少ししてその眉をひそめた。
「書かれていない」
「えっ!?」
同じく読んでいたらしいネヒリスが、ヴィクターの横でため息を吐く。
「いずれわかるだろう、だってさ。今教えろよ」
「いや、ほんとだよ! なにこの書、使えない!」
「こら、マコト」
「だって……。ねえ、この刻印取り消したりできないの?」
「無理ね。誓いの類は取り消すのは不可能よ」
黙っていたルーナが静かに声を落とした。
視線を向けると、厳しくも切ない色を帯びた瞳にとらえられる。
「ヴィクターの判断ならわたくしは文句は言わないわ。けれど雌豚、あんたはしっかりその小さな頭で行動をわきまえなさい。その命にかかった重さを」
もっと金切り声でもあげて怒ると思ったのに、想像以上に淡々と言われて頷くしかなくなる。
こんな真面目な話のときにも雌豚と呼ぶのかとは突っ込めない空気だった。
「ちっ、貧相顔。今回ばかりはルーナの言う通りだ。お前だけの命じゃねえことをしっかり貧相な頭に刻みこめ」
神妙な顔で頷きつつも、不安になる。
(まさか解呪の書に、『聖女のあだ名は貧相顔と雌豚だった』なんて書かれないよね? 後世まで語り継がれないよね?)
自分では読めない分、心配だ。
もしそんなことが起こったら、聖女の権力をフルに行使して書の改ざんを心に誓う。
(あ、これもヴィクターに誓わせばよかった)
いつか誓いに付け足してもらおうかなんて考えながら、全員でルーナの作った食事を食べた。
食卓を囲む顔ぶれは、今日出会ったばかりの面々。
今朝までは両親と弟とテレビを見ながら食べていたことを思うと、すごく不思議だった。
そして彼らとこれから決して短くはないだろう時間を共にして世界を救うのだと思うと、もっと不思議だった。
いつか、地球に帰るとき、私は彼らとの別れを惜しむようになるんだろうか。
温かいスープを飲み込みながら、ぼーっとそんなことを考えていた。
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