天女ルーナ



ヴィクターとの誓いを終えてすぐ、どうにかネヒリスがルーナを説得してくれたおかげで、雌豚の私も小屋に入ることが許された。

それからというものの、薄紫の瞳が遠慮なく私を嘗め回すように見てくる。


「これが聖女ねえ?」

「どうも、聖女です」

「見た目は完全わたくしが聖女よね? 精々、薄汚い雌豚がいいところだわ」

「ヴィクター、キレていいよね?」

「落ち着け、マコト」


ルーナには言っても無駄と諦めているのか、私と彼女の言い合いはだいたい私が制されてしまう。

明らかに侮辱されまくっているのは私なのに、ネヒリスもヴィクターも、私が雌豚と呼ばれていることを一切否定せず、2人で作戦会議を始めている。


(こんな美人に比べたら私なんて雌豚同然ってこと?)


苛々しながらメンズ2人を横目で睨む。

さっきはかっこよく守るだとか言ったくせに、早速メンタルをズタボロにされている私なんて無視ですか。ときめきや感動を返してほしい。


「おい、ヴィクターをジロジロ見んな、雌豚」

「は? ってか、なにその口調」

「いいから飯作るぞ、来いや」


ヴィクターたちに聞こえていないことをいいことに、天女さんが輩のように私を台所へ引きずる。

そしてグラマラスなボディにエプロンを巻き付けた。


「ルーナ、料理できるの?」

「当然やろがい。他に作る人がいるように見えんのか? わたくしはあんたのような食べるだけの雌豚とは違うんじゃい」

「その口調どこで学んだの、まじで」

「それより、あんたのその恰好は何? 醜い豚足が丸見えじゃない」


ローブを脱いだ私の服装に、ルーナが怪訝な顔をする。

そういう自分こそ、まるでドレスのような大胆な服装なくせによく言う。


「これは女子高生の戦闘服だけど」

「ジョシ……? ちょっと、地球語使わないでよ」

「日本語だよ、これ」

「イホン??」


大きな目をぱちくりとさせて、ルーナが首をかしげる。

さっきまで雌豚とか豚足なんて言っていたとは思えないほど、見た目だけは可憐だ。


(ああ……可愛いってずるい……)


私がルーナを雌豚と言った日には、世界中から袋叩きにでも遭いそうなのに、ルーナは絶対にこの美貌で得をしている。


「許せない……」

「なにぶつぶつ言ってるんじゃい。いいからその豚の手を動かせや」

「ねえ、ルーナはウザイって言われない?」

「ウザイ?? だから地球語は……!」

「あ、そっか知らない? 超絶可愛いって意味の地球語なの」

「まあ……!」


まさかここで誉め言葉が来ると思っていなかったのか、ルーナは目を瞬く。

それから得意げに口元を緩めた。


「悪くない言語だわ。でも私は可愛いというよりは美人よね」

「そういうところもうざいね」

「あら? まあ、あなたに比べればアリ一匹さえうざいかもしれないわね」


口調さえもが変わり、ルーナは機嫌よく野菜を切り始める。

わりと褒められるのに弱い、可愛い(ちょろい)人なのかもしれない。


そのままルーナの様子をじーっと見ていると邪魔だと台所から追い出された。

マジで何のために私は台所へ呼び出されたのだろうか。


とぼとぼとネヒリスのもとへ戻ると、さっきまでいたはずのヴィクターの姿が見えなくなっていた。。


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