誓いのとき
瞬間、ルーナはヴィクターから体を離すと、わっと顔を覆ってしまう。
「ヴィクター! わたくし、嫌よ! 女なんかを部屋になんか入れたくないわ」
「そう言うな、ルーナ。これには事情が……」
「聞きたくないわ! わたくしの部屋に入るのなら、ヴィクターといえどその雌豚をどこかへ捨ててきてくださらないと!」
「あ、こら、ルーナ!」
言うだけ言って部屋に逃げ帰ったルーナに、ヴィクターがため息とともに頭を抱えた。
「ねえ、もしかして雌豚って私のこと?」
「…………」
「ねえ、雌豚って私のこと? ヴィクター」
「落ち着け、マコト。お前はえっと、なんだ、そう、聖女様だ」
それでフォローになると思うなど、なんて男だ!
怒ろうとしたけれど困ったような
(ああ……顔がいい)
「すまないな、マコト。ルーナはどうも気性の荒い天女で、他の女をああして嫌うんだ」
「さっきは貧相顔で今度は雌豚かあ……。地球帰ろうかな……」
「マコト……」
「うえーん」
ちょっと困らせてやりたくて拗ねてみたら、なぜだか本気で悲しくなってきてしまった。
そういえば私、こんな境遇になってから一度も泣いていなかった。
そんなことを考え始めると、本当に涙が出てきそうになって慌てて下唇を噛む。
(ど、どうした、わたし?)
ここまで怒涛の勢いすぎて色々思考停止状態だったのか、不意に口にした『地球帰ろうかな』が、心の弱い部分を刺激してしまった。
口にしてしまったら、どうしようもなく帰りたくて仕方なくなってくる。
気を抜くと子どもみたいに泣きわめいてしまいそうで、せりあがってくる涙をごっくんと呑み込んだ。
けれどその沈黙が、私の感情を雄弁にヴィクターに伝えていたらしい。
ヴィクターは私の正面に立つと、まるで物語の王子様のように目の前で片膝をついた。
「ヴィクター……?」
「きちんと伝えていなくてすまない。お前が能天気にへらへらしているものだから、どうも安心してしまっていた」
「おい、ヴィクター?」
いい雰囲気にそぐわない言葉選びに眉を顰めると、彼は一度咳払いをした。
「突然の異界、不安なことだと思う。これから今以上の不安と過酷な日々が待ち受けているだろう。けれど絶対に俺は、お前を死なせないと誓おう」
重い言葉に、はっと息をのむ。
ヴィクターは青い瞳をそらさず、私を見つめる。
「お前を傷つけるもの、全てから守ると誓う。どんな時も、側を離れずお前を守り抜く」
「ほ、ほんきで……?」
「だからどうか、俺と世界を救ってほしい」
優しく手をすくいとられ、その甲に口づけが落とされる。
まるで誓いのキスのようだと思った。
青い瞳を受け止めながら、私の中にも確かな覚悟が湧き上がる。
不安も恐怖も変わらずある。けれど、悩んでいたところで状況は変わらない。
そう、私はポジティブなのだ。
「わたしも、誓うよ」
「? ……マコト?」
繋がれた手を、今度は私の方に引き寄せる。
そして、彼の少し節くれた手の甲にキスをした。
「あなたと、この世界のために、全力を尽くすって、誓うよ」
「マコト……」
「そして、必ず地球に帰る!」
「ああ。俺がお前を必ず、地球へ帰そう」
言葉は、ある意味魔法かもしれない。
さっきはあんなに不安だったのに、力強い言葉を口にした途端、今度は力がわいてきた。
本当に彼とならば、世界を救えるようなそんな気がしていた。
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