魔法使いネヒリス②




「仲良くするのはいいが、後にしろ」

「お前には俺たちがじゃれついてるように見えたかよ?」

「いいから、ルーナのところに行くぞ」

「は? あいつも呼ぶのか?」


げろげろ~とあからさまに嫌そうな顔をネヒリスが浮かべる。

こんな捻くれた奴が嫌がる人なんて、今度はどんな人材なのだろうか。嫌な予感しかしない。


「ルーナって、だれ? 魔法使い?」

「あいつは、天女だよ。俺たちと同じ境遇のな」

「天女か~……」


ということは女の人だろう。

紅一点でないことは惜しいが、やはり旅には同姓の友達もいたほうが安心感がある。

さっきまでの想像から一転して美人の気立ての良い女性を想像し、にまにましてしまう。

するとネヒリスがおかしそうに笑った。


「そうやって期待してろ、貧相顔」

「なにその言いぐさ」

「あいつはヴィクター信者なんだよ。お前、嫉妬で殺されるかもな」


先ほどまでは嫌そうにしてたくせに、よほど私が嫉妬で殺されるのが面白いのか、ネヒリスはけらけら笑いながらローブを身にまとう。


(ヴィクター信者? ってなに?)


フードをかぶりなおしながら、横にいるヴィクターを盗み見る。

確かに学校にいたらファンクラブとかできそうな勢いのイケメンではある。


このイケメン具合を信仰しているということだろうか。

考えながら外に出ると、先ほどよりも空の色は暗く淀んでいた。


「あー……、急がないと一雨くるな、これは」

「少し走るぞ。いけるか、マコト」


言いながら、ヴィクターに手を握られる。

そのまま引かれるように森の中を駆け抜けていく。


その中で、ヴィクターがざっくり天女について説明をしてくれた。

天女は精霊を身に宿す人たちのことで、かつては王宮にだけ住まう天からの使いのような存在だったらしい。

癒しの力を手にする特別な存在だが、ルーナの先祖であるリレイミがバラソの仲間となったせいで、天女は散り散りになり、今はルーナ以外の行方は知れないという。


(話を聞く限り、聖女よりよっぽど聖女っぽい力を持ってるのでは!?)


戦力外の私とは比べ物にならないくらい、頼りになりそうな存在だ。

そうしてしばらく駆けた先、うまく雨に降られずたどり着いたのはこじんまりとした綺麗な小屋だった。

小さいけれど、ヴィクターやネヒリスの家みたいに汚くはない清潔感のある小屋だ。


ヴィクターはドアに手をかけて、悩んだ様子で一度離した。


「ネヒリスが開けたほうがいいんじゃないか?」

「いや、お前がいけよ」

「いやいや、お前が」

「何言ってんだよ、お前がいけって」

「なにその譲り合い」


やんややんやと子どものような言い合いをする2人に呆れていると、騒がしさを聞きつけたのかドアが開いた。

そこから顔を出したのは、桃色の綺麗な髪を揺らすグラマラスな美人。


想像を超えた天女具合に驚く暇もなく、彼女はヴィクターを見つけると目を輝かせ、その胸に飛び込んだ。


「まあ!! ヴィクター!! 会いに来てくれたのね!」


熱烈なハグを何とか受け止めたヴィクターが、苦笑いで彼女の背中をさする。

ネヒリスはその様子をニヤニヤと眺め、さっさと小屋の中へと入っていた。


勇者の浮気現場(?)にどう対処するべきか迷っていると、ラベンダー色の綺麗な瞳がキッと私を視界にとらえる。

そして、先ほどの鈴のような声はどこにいったのか、地を這うような声で呟いた。


「あら? 女がいるわね……?」



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