魔法使いネヒリス①




家の中は、全体的にごちゃごちゃとしていた。

ヴィクターが魔法使いは変な格好や変なものを持っているといっていたけれど、それに納得する。

部屋の中にはところせましとよくわからない像や武器などが並べられていた。


「で? なんだ、その女。新しいはみだしものかよ」

「いや違う」

「なら何だ? 俺は安い同情で近づくような奴が一番嫌いだぜ」


冷めたネヒリスの声が、なんとなく2人の孤独を感じさせた。

明らかに歓迎されていないムードに居心地の悪さを感じていると、ヴィクターが私の頭に乗ったフードを外す。


「彼女はマコトだ。俺たちが待ち続けた聖女だ」

「…………………は?」


ネヒリスはたっぷりの沈黙のあと、あんぐりと口を開けた。

そしてルビー色の瞳で信じられないとも言いたげに私をじっくりと見つめる。


イケメンに見つめられるのは悪くないけれど、視線の種類がなんとなく良いものじゃない感覚がして、いい心地はしない。

文句を言ってやろうかと思っていると、ガッと肩を掴まれた。


「お前っ! 『チキュウ』から来たのか……!」

「そ、そう、だけど……っわ! ちょっ!」

「やっと、やっとこの時が来た……!」


勢いのまま抱き寄せられて、ネヒリスの腕の中に閉じ込められる。


(な、ななん!?)


見た目ではあまり体格の良さは感じなかったけれど、体が触れ合うと嫌でも彼が男の人なのだと感じる。

女友達同士で抱き合う感覚とは違う、少し固くて、だけど力強いような感触に否が応でも頬が熱くなっていく。


(恋愛初心者にイケメンからのハグはきついて~!!)


声にならない声を上げていると、後ろから呆れた声がかかった。


「ネヒリス、離してやれ。固まってるぞ」

「あ、悪い。つい興奮しちまった」


何でもないことのように離され、自分だけ照れてるのが死ぬほど恥ずかしい。

真っ赤になっているであろう顔を隠すようにローブのフードを被りなおしたけれど、ヴィクターが追いかけるように顔を覗き込んできた。


「なんだ? お前。頬が赤いな」

「べ、べつに赤くないし! 目、大丈夫!?」

「目は大丈夫だ」


クソ真面目に答えられて、沸騰していた頭が冷めていく心地がする。

すると今度はネヒリスがからかうように顔を覗き込んできた。


「なにお前、照れたの?」

「うるさい、ハゲ。照れてないです」

「ハゲ?」

「髪が薄いって意味だよ」


どうやら通じない言葉もあるらしい。

襟足でまとめられたきれいな髪に対する嫌味だったけれど、なぜかネヒリスは眉を吊り上げて私を睨んだ。


「だれがハゲだよ! お前こそ貧相な顔しやがって」

「ひ、貧相な顔!?」

「聖女なんていうからてっきり美人かと思ったが、こんな幸薄の貧相顔だとはな」


(人が気にしていることを……!)


そう。私は何を隠そう、貧相な顔だ。

断じてブスではないと思っているが、特にとりえのない顔をしていることは事実だった。

それも、こんな見た目だけは非の付け所のない男に言われては、否定のしようもない。


「くっ……ちょっとイケメンだからって調子に乗って……」

「……イケメン? また侮辱してんのか」


不機嫌に眉をひそめたネヒリスの後ろでは、ヴィクターが呆れた様子で椅子に座るのが見えた。

どうやら仲裁は面倒だと諦めたらしい。

ネヒリスはいい奴だと道中に言っていた奴の所業とは思えない。

さっきまでのお人好しはどこにいったのだ。


ヴィクターへの文句は後に置いておいて、とりあえずネヒリスに向き直る。


「もしかしてイケメンの意味も知らないの?」

「あ? 『チキュウ』の言葉だろ? 知らなくて当然だ」


わざわざ顔がとんでもなく良い男のことだと教えるのも癪だ。

いたずら心がわいて、べっと舌を出した。


「じゃあ教えてあげません~~」


我ながら小憎たらしいことをしたなと思っていると、ネヒリスが驚いた顔をして、その頬を赤らめた。

そして、私の頭をゴンっと拳骨で殴ってくる。


「いったぁ!?」

「バカか、お前! 舌なんてだすなよ! はしたない奴だな!?」

「舌くらいでなに? べろべろ~!」

「っ、おまえ! 恥ずかしくないのか!?」


どうやらルコークダでは舌を出すのは恥ずかしい行為らしい。

というか、日本でも別に褒められた行為ではない。

でも今はネヒリスが動転してるのが面白くて舌を出していると、さすがに見兼ねたヴィクターに、こらっと怒られてしまった。






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