仲間探し②
緩んだ頬を見られないよう顔をそらしたのが、すねたように見えたらしい。
ヴィクターが言葉を選ぶように、フォローを口にする。
「お前のような奴に、出会ったのが初めてだったんだ」
「変な奴ってことでしょ」
「……出会ったばかりだが、お前といると愉快だと思う。こうして笑ったのは、いつぶりかわからない。張りつめていたはずなのに、お前といると気が緩む」
「え……」
まっすぐすぎる言葉に、逸らしていた顔を戻す。
どんな顔してヴィクターが話しているのか、気になってしまった。
けれど、見てすぐに後悔する。彼は、めちゃくちゃイケメンな顔をして言っていた。
(顔がいい……。ねえ、いまのって告白?)
私といると楽しくて自然と笑顔になっちゃって気が緩むというのは、口説き文句としか思えない。
(いや、でも出会って1日目で告白ってさすがに早すぎない?)
にまにましそうなのを必死にこらえていると、少し下がったフードをヴィクターがなおしてくれる。必然的に近づいた距離に、ちょろい心臓がきゅんと音を立てた。
「ずっと一人だったからな。騒がしいのは、いい」
「う……っ」
向けられた柔らかな笑顔に、うめき声がこぼれる。
ゼロ距離のイケメンの笑顔は、魔物の瘴気なんかよりも体に毒だ。
そして何より、不憫だった。こんな恐ろしい森の中の一軒の掘っ立て小屋。
そんなボロボロの小屋の中で一人、何年も暮らしてきたのだろうか。
変わらぬ日々を。ただ聖女を待ち続ける日々を、過ごしてきたのだろうか。
(不憫……ほんと、不憫……)
不憫な男に弱い私は、あっけなく陥落していた。
「ヴィクター。これからは、もっと楽しくて騒がしい日を過ごそうね」
「マコト?」
「一人でいた頃が思い出せないくらい、楽しい旅にしよう」
「……そうだな」
過酷な旅になることはわかっているけれど、どうせなら少しでも楽しい旅にしたい。
元々、私はポジティブな性格なのだ。
とんでもない魔王がいようとも、簡単に屈してなんかやるものか。
それから魔法使いネヒリスの家に着くまで、ヴィクターは王家の話をしてくれた。
元々、ルコークダの王家は自然現象を司る神のような存在だったらしい。
多種多様な種族が存在する中、王家は別格とされ、少しでもずれてしまえば崩れる均衡を王家が緩衝材として長年、保っていたそうだ。
500年前にバラソによって世界の均衡が崩された今、たとえ魔王を倒したところで、元の世界に戻すのはそう簡単なことではない。
恐らく、バラソが支配するのにかかった100年の倍……200年はかかるはずだとヴィクターは言った。
私は、やはり途方もないと思った。
少し前まで、私は数日後のテストのことすら、まともに考えていなかったのに。
恐らくそう年も変わらないヴィクターは200年後のことまで考えているなんて、なんだかすごく不思議な心地がした。
そうしている間に、ボロボロの掘っ立て小屋が森の中に姿を現した。
ぼろ具合はヴィクターと変わらないが、この小屋はつぎはぎだらけで清潔感がゼロだった。
元より、ヴィクターの小屋も清潔感なんて大してなかったけれど。
「ここだ」
ヴィクターは短く言って、小屋のドアをノックする。
小屋の中からドンガラガッシャンととんでもない音がした後、勢いよくドアが開いた。
「ヴィクター、珍しいな。って、そっちのは? なんだ?」
月明かりを閉じ込めたような蜜色の髪を揺らして顔を出したのは、ルビーのような瞳を持つ、これまたイケメンだった。
「説明は、中でさせてくれ」
「ああ、入れよ」
ネヒリスは訝しげに私を見ながら、私たちを部屋の中へ促した。
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