王族の魔法②



「ルコークダには、お前が言う『ジカン』というものは存在しない。500年前にはあったそうだが、天候や時の流れは全てバラソの思うままに操られている」

「な、なにそれ……神さまじゃん」

「そうだな。そういっても過言ではないほど、バラソはこの世界を支配している」


なんだか聞けば聞くほどとんでもない。

好き勝手に天候や太陽を操る人を、どうやって倒せるというのか。


(これ、超無謀だったりしない?)


神さまにも似た存在を、目の前でシチュー食べてる男と本当に倒せるのだろうか。

聖女と勇者なんて名前だけは立派だけど、見た限りただの人間だ。


(それとも、実は私すっごい魔法使えたり?)


「ねえヴィクター、私って魔法使いなの?」

「いや?」

「でも、最初に私に『魔法使いか』って聞いたじゃん」

「あれは、魔法使いはだいたい変な格好をしているし、変なものを持っているからな」


言いながら、ヴィクターは私の服を見る。

たしかに私が彼の勇者姿に違和感を覚えたように、ヴィクターの目にも私の制服がおかしく映るのだろう。


「じゃあヴィクターは? 魔法とか使えるの?」

「使えるが、王族特有のものだ。魔法使いのそれとは異なる」

「どう違うの?」

「……難しいが、体の仕組みが違うとしか言いようがない」


それからヴィクターは何やら難しく説明してくれたけれど、まったく理解できなかった。

とりあえず扱うエネルギーとやらが違うらしい。


王族だけが使える魔法というのも気になったけれど、見せてといったら何故かもったいぶられた。

生娘でもあるまいしと呆れたら、何故かはしたないってめっちゃ怒られたので、もう触れるのはやめておいた。


「それで、私は何をすればいいの?」

「お前は……」


ヴィクターは何故か言い渋ると、水を一口飲む。

そして口を開いて、また閉じた。

その気まずげな態度に、もしやと思い当たる。


「もしかして、ないの!?」

「ないというか、よくわからない」

「な、なにそれ~……」


一般的に、それは無計画という!

呼び出しておいて、何をしてもらうかはこれから……なんて、あまりにも杜撰すぎる。


「バラソを救うにはお前が必要ということは、解呪の書を見る限り明らかなのだが」

「ヴィクターの後ろをのこのこついていくだけ? そんなの途中で殺されちゃうよ!」


言ってからぞっとした。

そうだ、必ずしも救えるとは限らない。

この世界で命を落としてしまう可能性だって大いにあるのだ。


「……そうならないよう、俺がいる」

「ヴィクター……」

「お前は必ず、俺が元の世界へ返す。この、ルコークダの名に誓って」


青の鋭い瞳が私をまっすぐに見つめて、そのイケメンさにうっかりドキドキしてしまう。

よくよく見れば変な服装しているし、ぼろい掘っ立て小屋の中だというのに、イケメンは人をときめかせるのに場所も服装も選ばないらしい。


(うう……顔がいい……)


よくわからないルコークダの名に誓われたところで安心などできるはずもないのに、なぜかさっきまでの不安が少し吹き飛んでいるのを感じた。

これがもしかしたら王族の魔法なのかもしれない。




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