大きな背中@『男らしく』は差別ではない

「お疲れ様でした」


 終業後の飲み会アフターファイブが終わり、私は自宅まで徒歩三十分の道程みちのりを歩み出した。

 が…


「うう…きもちわる…呑み過ぎた……」


 毎朝一時間歩いてウォーキングしていても、素面しらふで運動靴の場合と酔態すいたいでヒールの場合とでは勝手が違い、私は十分じゅっぷんも経たずに音を上げた。


「タクシー呼ぼ。…充電切れ!?はぁ…サイク…」


 そう呟いた時だった。


「先輩、ですよね?」


「えっ!?」


 突然私に声を掛けたのは中学時代の吹奏楽部の後輩だった。


「あ、あれー?久しぶりじゃん。二十年ぶりくらい?」


「十一年ぶりですけど、それってですか?取り敢えずタクシー呼びますね」


 精一杯平静を装って体裁を保とうとした私に後輩はあっさりと言った。


「い、いやいや大丈夫だから!歩き疲れたから休け…うんそう!休憩中!家すぐそこだし!歩けるから!」


「近いなら…どうぞ」


「っ!?どうぞってとかは恥ず…」


「どうぞ」


 久しく会っていなかった後輩の背中はすっかりなっていた。

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