バスタイム@ほんの数分程の優しさ

 キンコーン…


 降車の意思を示すスイッチを押すと車内アナウンスが流れ、停留所で僕達は降りた。


「…ねえ、本当に送らなくて大丈夫だよ。寒いしさ」


 彼女は申し訳なさそうにしながら言った。


「気にしなくていいって。歩けば暖まるし」


「でも夏は汗だくだったでしょ?すぐそこだからわざわざ送らなくていいって」


「この時間が好きなんだよ。毎日会える訳じゃないし、が重なった日くらいはほんの少しでも一緒にいたいんだ」


 僕がそう言うと彼女は頬を紅く染め、無言のままで手を繋いできた。

 社内恋愛の僕達の互いの家の距離はバスの停留所で三つ。

 付き合うまでは互いの家の最寄りの停留所で降りていた僕達だが、付き合ってからは僕が彼女の降りる停留所まで行って共に降り、無事に帰宅するのを確認してから来た道を戻っている。

 互いの仕事あがりの時間が重なった時のみに訪れる車内時間バスタイム帰宅時間かえりみちの共有が僕は好きだ。

 因みに彼女は実家暮らしだ。

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