みかん、坂路、ころりんこ@映画の様な、昔話の様な。

「あっ!」


 大きな荷物を抱えた女はうっかり買ったばかりのみかんを一つ落としてしまった。

 そこは坂路さかみちだった。


 ころころ、ころりん、ころりんこ。

 みかんは坂を転がった。


「待てー!アタシのみかんー!」


 別に女はたった一つのみかんが惜しいという訳ではない。ただ、落とし物をしたという心理が女を焦らせた。


 ころころ、ころりん、ころりんこ。

 みかんは坂を転がった。


「おやおや素敵なお嬢さん。キミはなんだってそんなに大きな荷物を抱えているんだい?大変だろうから僕が半分持ってあげよう」


 坂路を下った先には一人の男がいた。


「いや、そーゆーのいーから。つかキモい。あんたどーせナンパ目的なん…でえ!?そ、それ!?」


「ん?ああ、このみかんかい?これはさ。キミの態度と同じで少し酸っぱいけど美味おいし…で!」


「それアタシのみかん!」


 女は塞がった手の代わりに男を足で蹴った。

 男はみかんのお詫びに荷物持ちとしてき使われたとさ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る