夏の夜空@蜃気楼を刻む

 パチパチと音を発てながら揺らめく炎を僕らは見つめていた。

 互いの家族が眠りについた深夜一時過ぎ、僕らは揃って家を抜け出して近所を流れる川へとやって来た。

 そこで僕らは川のほとりに小さな穴を掘り、辺りに転がる枯木を集めると花火で使った点火用のライターと破いて持ってきたノートの切れ端を使って火を点けた。その火は小さな枝から大きな木片へと火を灯し、やがて細やかな焚き火の炎へと変化した。

 その日、誰もいない夜空の下で二人だけのを過ごした僕らは夜明け前まで想い出を語り合った。

 君と出逢った日の事、初めて二人きりで遊びに行った日の事、僕が人生最大の勇気を振り絞って告白した日の事…

 想い出が夏の陽炎の中に呑み込まれてしまったとしても、夜空だけは覚えている様にと願いながら僕らは想い出を夜空に刻んだ。

 時の流れと共に蜃気楼の様に霞んでいく懐かしい日々が確かにと、いつか夜空が思い出させてくれる様に…

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