雨粒と約束@濡れた上着と紙袋

「いいとししてベッドの上での約束を信じるなんてバカな女…」


 傘を鳴らす雨粒の音に紛れて女が呟いた。

 一週間前、女は飲み会の帰りに再会した元彼と淋しさを紛らわす様に一夜を共にしてまた会う約束を交わしていた。

 それがこの日この場所だったが、既に約束の時間から一時間程が過ぎたにも拘わらず男は現れなかった。


 


 四日後に三十歳の誕生日を控えた女はそう自分に言い聞かせた。


「帰ろ…」


 女が再び呟いた時だった。


「遅れてごめん!」


「来たんだ…でももう私帰るから」


「本当にごめん。せめてこれだけ」


 男は自身の上着で覆っていた小さな紙袋を女へ手渡した。


「え?なんで?あの店は通販とかしてないのに」


 それは再会した夜に女が一度食べてみたいと語った地方の人気洋菓子店の紙袋だった。


「お前もうすぐ誕生日だろ」


 その言葉を聞いた瞬間、女は男が遅れてきた理由に気がついた。

 男は女の為に遠路遥々ケーキを買いに行った為に遅れたのだと…

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