春秋冬夏@蜃気楼は再び

「春は秋を匂わせ、秋は春を懐かしむ。冬は夏をいつくしみ、夏は冬を想わせる」


「詩人ですね、主任。どんな意味を込めているのか教えてもらえませんか?」


 初めて大きな案件を任された私の補助役として同行した主任は取引先での待ち時間に不意に呟いた。


「さあね、わからないわ。これは私の言葉じゃないもの。これを私に言った…いえ、書いてくれた人は意味を込めていたと思うけど、今となっては確かめる事も出来ないわ」


「あ…す、すみません!」


「謝らなくていいわよ、よくある引っ越しを伴う別れなんだから。初めは文通していたけど、次の引っ越し先から手紙を出したらそれっきり。たぶん相手も同じタイミングで引っ越したのよ。当時は学生が携帯電話を持つ様な時代じゃないから確かめる事も出来なくてね」


「お待たせして申し訳ありません。私が担当の…えっ!?」


 主任を見た瞬間に取引先の人が見せた驚いた表情は、その人がを私に悟らせた。

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