冬の縁日@蜃気楼の様に

「お待ち」


 出来立てのたこ焼きを受け取った僕は神社のすぐ裏にある川のほとりに座り、空を見上げながら君を待った。


 ぴと…


つめて!」


「お待たせ。ビックリした?」


 約束の時間よりも少し遅れて来た君は後ろから近付き冷えた手を僕の頬に押し当てた。


「今日も寒いねー」


「だね。でもほら、お陰でこれがいい感じだよ」


「たこ焼きじゃん!…湯気やばっ!」


 僕が袋を手渡すと君はたこ焼きの入ったパックを取り出して蓋を開けた。その瞬間、湯気の向こうの君の笑顔が蜃気楼の様に霞んで見えた。


「ふー、ふー、ふー…ん。したから口開けて」


「それは…」


「照れんなし」


「んむ…っ!?」


 君が僕の口に放り込んだたこ焼きは適温の表面に反して中身は異常な熱さだった。熱さに悶絶する僕を見た君は「ごめんごめん、ふーふー足りなかった?」と言って笑った。

 些細な事で笑い合える君と過ごす時間はもう少ししか残っていない…この冬が終われば君は海の向こうへと旅立つ。

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