漆黒色の心@灰色の猫

「そろそろいくよ」


 男はそう呟くと一礼をしてから振り返った。


「猫?」


 男が振り返るとそこには一匹の猫がいた。

 本来ならば真っ白な毛色をしているであろうその猫は、土埃に汚れて灰色に変化している自らの毛を誇るかのように毛繕いをしていた。


「にゃおん」


 男を見て猫が鳴いた。

 男を見るその瞳は宝石の様なみどり色をしていた。


「そんなに薄汚れちまって」


 その言葉に反応したのか、猫は毛繕いをやめて男へ歩み寄り、自らの体を男の足へとこすりつけた。

 一度、二度、三度…

 猫が体を擦りつける度、抜けた毛がまとわりつく様にして艶のないをした男の衣服に彩りを与えた。


「バカ、汚れちまうだろ」


 男はそう言いながらも拒もうとはせず、その場にしゃがみ込むと猫の体を撫でた。

 男の頬には涙の跡があった。

 漆黒色の衣服に独特な香りを纏わせた男は殺風景な場所で独り泣いていた。


「にゃおん」


 その声と確かに伝わるぬくもりが男の心に彩りを与えていた。

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