四月一日@嘘という名の本音

 四月一日。

 この日は四月バカエイプリルフールと呼ばれ、嘘をいていい日とされている。

 だが、二人にとってこの日は互いに本音が言えた唯一の日だった。

 これは、家柄だけで婚約者が定められていた二人の話…



「知ってる?異国では今日は嘘を吐いていい日なんだって」


「へえ、また異国の風習が渡来したか」


「……ねえ、せっかくだから嘘を吐いてみない?」


「ああ、いいぜ」


「じゃあ私から…」


 そう言うと、女は男の眼を真っ直ぐに見ながら口を開いた。


「もしも…もしも私が貴方を好きだって言ったら信じる?」


「…例えそれが、今日限りの嘘だとしても俺はその嘘を一生信じる」


 男は悲しげな眼差しで答えた。


「そう。…私は貴方が好き」


 女は震える声でそう言った。


「俺もだ」


「これ、嘘だからね…」


「わかってる…」


 翌日、女は親が決めた婚約者の下へと嫁ぎ、男もまた親が決めた婚約者を娶ることが定められていた。

 四月一日の本音うそを胸に秘めた二人は二度と会うことはなかった…

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