鯖味噌定食@涙の味

「ほら喰えよ、ハラ減ってんだろ?」


 オヤっさんの言葉は現在いまも俺の耳に残っている。


 三十数年前…

 両親を事故で亡くし、高校を中退せざる得なくなった後も定職につかずしていた俺は当然の如く赤貧だった。

 その頃、いつも俺に「出世払いでいいから」と無料ただめしを喰わせてくれる店があった。

 六十歳を過ぎてからは年齢としを数えなくなったというその店のオヤっさんは凡そ一年半、毎日無料飯を振る舞ってくれた。


 そのオヤっさんが先週死んだ…

 百歳近かったらしい。

 あの頃、俺と同じ天涯孤独を自称していたオヤっさんには家族がいて、オヤっさんの遺言で通夜は店で行われた。


「これ、受け取ってください」


「えっ!?ちょっ、これ…こんな大金…あの!」


「今までのですから、どうか受け取ってください」


 それは、真っ当に働き始めてから毎日一枚ずつ貯めていた五百円玉貯金…

 稼ぎ出してからはなんだか照れ臭くて会いに来られなかった俺の気持ちだった。

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