昔ながらの照れ隠し@変わらぬリズム

 トントントン。


 一定のリズムを刻む音が聴こえる。


 トントントン。


 包丁がまな板を叩く音らしい。

 この音を聞くと不思議と懐かしい気持ちになる。


 トントントン。


 心に刻まれたリズムは何年ときが経っても何歳いくつになっても変わらずに心地好い。


 トントントン。


 今日の夕飯はなんだろうか?

 俺はそっと耳を澄ましてみた。


 トントントン。

 コトコトコト。


 何かを煮るような音がする。

 俺は台所へ向かった。


「…あらあなた。もう起きたの?まだ寝ててもいいのに。日曜日にゆっくり出来るのは子供達がお義母かあさんの家に泊まりに行ってる連休だけよ」


 今日は日曜日、時刻は十六時を過ぎていた。

 明日は祝日、世間は三連休だが俺は違う。

 俺の土日祝日は必ず夜勤だ。


「ありがとう。でも君の後ろ姿を視ていたいんだ」


「あらそう?じゃ自由すきにして」


「………愛してるよ」


 俺が後ろ姿にそっと呟くと、妻は素っ気なく手振りで返した。

 それは、十五年前の新婚時代と変わらぬ妻の照れ隠しだった。

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