文通相手は塩対応@恋文と添削と文通と…

 発端きっかけは私だった。


『言葉にする勇気がないので手紙で伝えます。私は───』


 後生ごしょう一生いっしょうの勇気を振り絞って書いた恋文ラブレターは翌日の朝に私の下へ戻ってきた。

 それは突き返された訳ではなく、返事用の紙を同封した事による理路りろ整然せいぜんとした成行なりゆきだった。

 どんな結末こたえが届いたのか戦戦せんせん恐恐きょうきょうな私の心に反し、届いた返事は瞠目どうもく結舌けつぜつたる内容だった。


誤字ごじ脱字だつじが多い。書き直せ』


 まさ大山たいざん鳴動めいどう

 緊張に緊張を重ねて封を開けた私の心はその一行で木端こっぱ微塵みじんに打ち砕かれた。

 更に奇奇きき怪怪かいかいな事に、恋文ラブレター懇切こんせつ丁寧ていねいに添削され、慇懃いんぎん丁重ていちょうに例文が付け加えられていた。

 その残杯ざんぱい冷羹れいこうな対応はあまりにも冷酷れいこく無比むひに思えた。

 ただ、文末に書き加えられていた最後の文章が暗雲あんうん低迷ていめいに陥った私の心を晴らした。


なら何度でも添削してやる。二通目も楽しみにしているぞ』


 私は気がついた。

 どうやら私の好きな人はらしい。

 こうして私達の奇奇きき妙妙みょうみょうな文通が始まったのである。

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