落葉桜花@真冬の桜
「目を開けてごらん」
男が優しく促すと女はゆっくりと瞼を開いた。
「わあ…」
女の目には威風堂々と咲き誇る満開の桜が飛び込んできた。
周囲の木々が葉を落としている中でただ一つ、その桜の木だけが満開だった。
「もっと近くに…」
「わかった」
男は女の乗る車椅子を押して桜の木の下へと連れていき、二人が揃って木陰に入ったところで停めた。
そして、二人は暫く想い出を語り合った。
「あ…雪だ」
不意に空から雪が舞い降りた。
冷たい風が吹き、雪と桜の花びらが二人を包んだ。
「…そろそろ戻ろうか」
「もう少しだけ…」
「そうか。なら…」
男は上着を脱いで女の膝の上にかけた。
「あったかい…あなたの
「また来ような…」
「ええ…」
それから一ヶ月後、女はこの世を去った。
春まで生きられないと言われた女の最期の願いは「二人でもう一度花見がしたい」だった。
男は女の為に桜の葉を落とし、冬に桜の花を咲かせた。
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