殺し愛の詩@戦場の愛の終結

 見つめ合う男女ふたりは黙ったままで互いに銃口を向けていた。

 戦場で生まれて硝煙が育んだ愛は互いの母国の同盟が破棄された事で露と消えた。

 昨日の敵は今日の友、明日の敵は今日の友…

 政治じょうきょうに左右される戦禍の常。

 そんな詭弁ことばでは到底片付けられない、男女の愛がそこにあった。


「…撃てよ」


 男が言った。


「あなたこそ…」


 女が返した。


「「じゃあ…」」


 二人の言葉が重なり合った。


「先に言えよ」


「あなたこそ先にどうぞ」


 沈黙がその場を包んだ。

 その時だった。


『退却命令!我が軍よりミサイルが発射された!我々は10ひとまる分後に戦場を離脱する!』


 それは、男の仲間からの連絡だった。

 同時に女の仲間からも同様の連絡があった。

 だが、二人は動かなかった。


「…行けよ」


「…あなたこそ」


「ここにいたら死ぬぞ」


「あなたこそ死ぬわよ」


 男女ふたりは寄り添い、そっとキスを交わした。

 空からは二つの大国から発射されたミサイルが二人のいる戦場へ迫っていた。



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