タカラバコ@実家に置いてあった荷物

「あ…」


 思わず声が出ていた。

 半年前に父が亡くなり、母は一人では広すぎるという理由で家を手放す事を決めた。

 母の引っ越しに伴い、私は実家に置いてあったままの自分の荷物を仕分けに来ていた。


「あんたどうしたの?変な声だして」


 私の声に気がついた母が私の手元にあった物に目を向けた。


「あら!懐かしいわね、この箱。確かあなたがどうしても欲しいって言ってお小遣い前借りして買ったのよね」


「うんそう。これはタカラバコ。だからこうして開かない様にテープで止めてあるの」


「へえ、中身はなんなの?覚えてる?」


「うん、覚えてるよ。駄菓子屋で買ったプラスチックの指環とか綺麗な色した石とかガラクタばっか」


「そう、じゃ捨てるのね」


「ううん、捨てないよ。これはここに住んでた子供の頃の私の宝物だからこの家に。これ、庭に埋めてもいいよね?」


「好きにしなさい」


 私は思い出の詰まった小さなタカラバコを開けることなく庭に埋めた。

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