旅立ちの空@空港のターミナルより

 十二年の月日が経った。

 当時まだ学生だった男は立派な社会人となっていた。

 この八年間、男は必死で努力した。

 勉強が苦手な男が一念発起して頑張った。

 国語、数学、社会、理科は相変わらずの成績だったが、英語だけは飛躍的に上達した。


 社会人となった男は翻訳家と派遣の通訳を兼業しながら機会を待った。

 そして遂に、男は海外の語学スクールの日本語担当の臨時講師として採用が決まった。


「もしもし兄貴?俺だけど」


「どうした?間際になって行くのが怖くなったのか?」


「そんなわけあるか。ただ…」


「…なんだ?」


 男に感謝の想いが溢れた。

 電話口の兄は男よりも十歳上で、男が五歳の頃に両親が亡くなってからずっと親代わりだった。


「兄貴…今まで本当にありがとう。これからもよろしくな」


「ばかやろうが…二人一緒に帰ってこなかったら家にはいれねえかんな!」


「ああ!行ってきます!」


 男は八年前にここでキスを交わしたひとを迎えに空へ旅立った。

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