指紡ぎ@約束の桜

「ゆーびきーりげーんまんうーそついたら」


「はりせんぼんのーます」


「ゆびきっ…どうしたの?」


「…きりたくない」


 あの日、君はそう言って指を離そうとしなかった。

 僕の左の小指と君の左の小指を繋ぎ、を誓った最後の指切り。

 それは、ゆびりではなくゆびつむぎ。

 君と僕とを結ぶ再会の約束…


 近所に暮らし、同じ幼稚園へ入園してから卒園までを一緒に過ごした女の子は、卒園と共に遠い異国へと旅立った。

 幼い僕は突然の別れの真実ほんとうの意味を理解せず、小学生になればまた会えると思って笑っていたが、君に促されておこなったの後で指を離さない君の表情かおが僕を哀しくさせた。

 僕にとって初めての別れの痛みは暫く残ったが、一年後の春にはもうあの日の事を思い出さなくなっていた。

 そして、成人式を控えた年の春だった。


「あのさ…久しぶり、だよね」


 あの日と同じ場所で桜の匂いに包まれた君がいた。

 まるで問い掛ける様な君の声に僕は全てを思い出した。

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