別れる恋人達@駅のホームにて

「じゃ、あたしだから…」


「ああ、気をつけて帰れよ」


「うん。


 恋人達は最後の瞬間ときを迎えていた。

 少し前に別れ話を済ませ、互いにすっきりした表情の男女はそれぞれの駅のホームに分かれた。


「あ…」


「あ…」


 何も考えずに分かれた二人は同じ方向の階段を上っていたらしく、線路を挟んで向かい合った。

 妙な感覚だったが、と思わせるのも何だったので、二人は互いにその場を離れず、他に誰もいない駅のホームで視線を交わさぬまま向かい合っていた。


『間もなく、上り電車が参ります』


 そうして何もせずに向かい合っている間に女の乗る電車のアナウンスが流れた。

 その時だった。


「結局けど!俺!お前と過ごした時間は本当に楽しかった!今までありがとな!元気でな!」


 男が向かいのホームにいる女に向けて叫んだ。


「…ありがと。あたしも楽しかったよ」


 女は小さくそう呟いてやって来た電車に乗った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る