第六章 半魚人強襲
第743話-1 彼女は海豹人の登場に驚く
「まじっすか」
「ええ。大マジよ」
クラン寮に事前に訪問するリリアル勢。自分たちの把握している現状を説明し、『賢者学院の防護壁内にはとどまらない』と説明する。何故なら、内部に裏切り者の水派がいる状態で一箇所に固まるのはよろしくないと判断したからである。
「その話はどこまで信じていいんだ」
「それは、学院内部のことを理解している寮監のあなたの方がわかるでしょう?」
クリノリは彼女の説明に言葉の上では反論したが、実際は疑う余地もないと考えている。表向き、賢者学院に獅子身中の虫がいるなどと見習たちの前で言いたくないのだろう。
「なら、俺達も領主館で一緒に立て籠もるか」
「それは悪手ね」
「……なんでだよ!!」
ハックの発言を伯姪が否定する。
「単純に、あなたたちが賢者の一員としての義務を放棄したと見なされかねないからよ」
「「「……」」」
水派の協力を得られないとしても、火派・土派・風派が協力して学院防護壁を使って防衛戦を行うというのは必要な事だ。四竦み状態を維持することが賢者学院を維持し、連合王国内のパワーバランスを維持する条件と
なるだろう。
「それに土の精霊魔術師、とくに樹木を盾にするのであれば、学院敷地内に植えられている木々以外に利用できるものがないではありませんか」
「そうですぅ。この寮だけじゃなく、防壁を突破してきた半魚人を討伐するのに一番有能なのは、最弱の木組じゃないですかぁ」
「ですわぁ」
『ラ・クロス』では最弱のクラン寮生だが、本来の賢者としてなら、森の木々を利用した防衛戦では最も活躍できる存在だ。
「防壁上の戦闘は、火と風に任せて、抜かれて敷地に侵入したところを……」
「俺達が仕留める」
「株と魔力が上がる」
「ついでに、予算も増える。飯が旨くなる」
「やるっきゃないっしょ!!」
「「「おお!!」」」
食いしん坊万歳である。
寮監クリノリには、賢者学院内の問題を公にしてもらい、その上で、策を擦り合わせる。
「どのみち、半魚人やクラーケンに水の精霊の魔術はあまり効果がないでしょう?」
「それは……そうだな」
防壁上の防衛戦では、海岸から上がってきた魔物に『火』と『風』による攻撃を行いダメージを与える。その上で、突破されたならば、敷地内の樹木を使い『土』の賢者が掃討する。
「時間が経てば、水派の中にも攻略を疑問に思い不安になるものが出てくるでしょう」
「そうだな」
日頃の付き合いで、心理的に弱い教員や学生を事前に洗い出しておく。その上で、防衛戦の経過を伝え乍ら『回復』の魔術を使うように誘導する。学院の身内同士が治療するされるというのは問題ないと説得する。
「あとで攻略が失敗した時に、治療した実績を持って庇ってやると言えば、保険のつもりで協力するんじゃないかしら」
「ええ。勝てば黙っていればいいし、負けたなら保身になるとでも言えば蝙蝠も生きやすいでしょう」
「「「蝙蝠……」」」
そもそも、外部の力を利用して自らの利を得ようとする行為自体が『蝙蝠』とも言える。獣でも鳥でもない存在になりたくなければ、協力しろと半ば強要することも必要だ。
「蝙蝠になりたくなければ協力しろ……ですぅ」
「ですわぁ」
そこで言葉を後押しするのが、敷地外の領主館に立て籠もるリリアル勢の存在である。
「領主館に留まるって、包囲されるだろ? 死にたいのか」
「死なないわ。クラーケンは討伐したことあるもの」
「……なん……だと……」
クラーケンは痺れ薬をぶちまけると、体表の粘膜から吸収していい感じに痺れてくれるのだ。全身が筋肉だが、その伝達機能を阻害してやれば身動きが取れなくなる。
「動きを止めてから、滅多切りね」
「魔力が尽きるまで切り刻んでやります」
「応援するは我にありぃ」
「ですぅ」
「戦いなさいよ!!」
魔装銃手である碧目金髪と赤毛のルミリはクラーケンに対しては無力かもしれないが、攻め寄せる半魚人を銃撃するのなら問題なく倒せるだろう。
彼女と伯姪、灰目藍髪と茶目栗毛は魔力壁を足場に魔力纏いを行う剣か長柄で触手を斬り飛ばし、再生できなくなるまで削り倒すつもりだ。
「領主館ではどうもならないだろう」
「周りを『土壁』と『硬化』で完全に塞いで屋上から迎撃するから問題ないわ」
「……そうかよ……」
領主館に入り込まれれば、内部を遡って追い詰めれられかねない。故に、最初から塞いでしまい『岩山』のようにしてしまおうということだ。防衛戦の最中の休息は魔装馬車でも可能であるし、水や食料も遠征用に十分持ってきているので問題ない。あるいは狼皮のテントもある。
「私たちが領主館の上で健闘する分、防護壁上の迎撃も楽になるでしょう。それと、士気も維持できるわ」
「援軍の無い籠城は負け戦だからな」
とはいえ、たった六人の防衛戦である。いや、人狼を加えれば七人か。
『リリーもがんばるー』
『そうかよ』
ピクシーに何ができるのかはわからないが、気持ちだけは取っておこう。
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