第742話-1 彼女は愚策に付き合う
「いろいろ考えたよ俺達も」
「無駄無駄無駄無駄ぁ!!」
「ですわぁ!!」
「……いや、聞けよ」
ヘイゼルは、自分なりに『土』の精霊魔術、それもドルイドの用いる専用の魔術を活用することを考えてきたのだという。
「へぇ、ドルイドの精霊魔術ね」
「なんか、カッコいい響きかもぉ」
「だから聞けよ!!」
話を聞かずダメ出ししていた碧目金髪は、綺麗な掌返しを決める。
「だけど、そんな使えるような魔術あったかな」
紅一点である『アンゼリカ』が疑問を呈する。アンゼリカは、口数の少ない女性で、見た目は一見少年かと思うほど髪も短く、華奢な体格をしている。綿毛のような明るい髪にやや浅黒い肌をもつ。ただし、寮生の中で最も魔力量が多く、リリアルの魔術にも関心が高い。言い換えれば、精霊魔術との相性があまり良くないのだろう。
「アン、先ずは聞けって。いいか……」
一つは『
「グレーね」
「限りなく黒に近い気がしますぅ」
「やってみてですわぁ」
「くっ!! まだ諦める時間じゃねぇ!!」
脚に絡みつくのは反則と取られるかもしれないが、足を引っかけるように草を結ぶのは問題ないだろう。引っ掛かった後、ほどけて分からなくなればなお良い。
「鍛錬次第でしょう」
「よし!!」
「よしで良いのかな」
迷ったら負けである。
「例えば、他の精霊の加護持ちとかだと、精霊に色々頼めたりするんじゃない?」
「そうだな。例えば、『
エルムは、「精霊召喚」について簡単に説明する。曰く、それぞれ加護・祝福を持つ人間が、魔力を消費し自分の持つ火水風土の精霊に頼み事をするのだという。加護・祝福の程度、相手の精霊の『格』、願い事の難易度、そして消費する魔力の量に応じて叶えてくれる確率が高まるのだという。
「それでは、精霊に頼みごとをして試合が終わるのではありませんか」
「いや、ラ・クロスの球ほどの重さがあると、普通の精霊程度ではさほど影響を与えられない。それに、状況が変化する試合中に、願い事をしている間に進んでしまうので、適時精霊に願い事をするというのは、精霊魔術を行うよりも難しい」
依頼を細かくしなければいけない分、精霊魔術で規定された現象を起こすだけの時よりも使い所が難しくなるのだ。
「精霊をずっと使役できるわけでもない。精々一分足らずだ」
その程度では、出しっぱなしで必要な時に依頼する使い魔のような運用も出来ない。
「私のお勧めは『
アンゼリカの提案に一同は頷く。競り合いの時などに、一瞬目標を見失わせるだけで相手を出し抜けるだろう。気にさせるだけでも良い牽制となる。
「けどよ、あれ、自分中心に手の届く範囲を濃霧で囲むとかだろ?」
「その外側を広い範囲で薄く見えにくくすることもできるな。視界ゼロにはならないが、見えにくくすることはできる」
「そこで『ツチボコ』ですよぉ」
「ですわぁ」
視界を妨げたところで、足元を悪くして転ばせる。完全に悪戯のような魔術の行使である。
「目隠しは悪くないと思うわ」
「やってみましょう」
「うん!」
アンゼリカは自分の策が採用されたようで、どこか嬉しそうに見える。前向きな提案がなされず、愚痴の言い合いしかしてこなかったクラン寮に思うところがあったようで、目に見えて表情が明るくなってきている一人だ。
勿論、『悪だくみ』で盛上る他の寮生も、彼女達と関わり始めた時と比べれば皆表情が明るくなっているのだが。
「あの、目くらましはどうかな」
おどおどした雰囲気のある『ハックベリィ』が珍しく自分の意見を述べる。
「霧じゃなくってか」
「う、うん。あの……
『盲砂嵐』とは、砂煙を土魔術で飛ばし、相手の目に砂を入れて視界を塞ぐ魔術である。霧と違って、目に入った砂が取り除かれる迄効果が持続する。砂の眼潰しのことだ。
「石ぶつけるのと同じ扱いになりそうだな」
「けど、最悪の状態でシュートを阻止する為なら、一か八かで使うのもありかもしれない」
「……まあ、そういう局面があれば、一回だけ使ってみるのも有りか」
「そ、そうだね。一回だけ、最初で最後の仕掛けで……やってみる……」
「「「「だめでしょ」」」」
砂の眼潰しは駄目だよ。絶対ダメ!!
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