第741話-2 彼女は水派に猛攻を加える

 リリアル的には、彼女の必ず殺すと書いて『必殺』シュートを逆転されるまで封印することにした。彼女がボールを奪い、ただ城門前の水の壁を爆散させるだけのストラックアウト的別の試合になりかねないと……彼女以外の全味方選手が指摘したからである。


「そうね。自分だけ目立つのは良くないわね」

「……そうじゃねえっすよ……」

「全力でシュートしてはいけないってルールはないもんなぁ」


 危険なプレーは反則となる。『杖』で選手を打つ、足を払う、球を持った選手が敵選手に向かって突撃する。球を持たない選手に体当たりする、進路を妨害するようにワザと走る、頭を叩くなどである。


 革球を全力で敵選手にぶつけてはいけない―――というルールはない。まして、城門に向けてなので問題ない。




 

 波乱の第一Q,そして第二Qは何事もなくスコアレス。半狂乱になりながらも、女門衛が幾重にも魔力壁を張り、全力全開で自陣を守っていた。さすがに、彼女以外のシュートは三枚の水壁の二枚までしか突破できず、無失点。負けじと碧目金髪も、適時『魔力壁』を展開し、水派選手の攻撃を跳ね返していた。


「あ、倒れた」


 第三Qの開始早々、魔力を切らした女門衛は糸の切れた操り人形のように、自ら展開した水の壁の残した水たまりの中へと頭から崩れ落ちたのである。


 まさに、命を削り必死に守り抜いた、自陣の城門と自らの肉体であった。その顔は、恐怖にこわばったままである。


「中々根性あるわね、あの子」

「死にたくないでしょうから」

「私の必殺シュートが封印されていたから、次に会った時には……」

「死ぬからもう勘弁してあげて欲しいっす!!」


 『アン』に半ば怒られるような口調で窘められ、彼女はシュートを諦めたのである。





 その後、水派門衛が次々に交代していった。全力全開の水壁形成、そして、魔力を切らして倒れていくの繰り返し。


 まさに屍累々。


 得点差は第一Qから変わらず、2-0で木組&リリアルが先行している。


 しかし、実体としては、必死に守る水派門衛と、途中で水派から球を奪うか、魔力壁の鉄壁防御から碧目金髪が供給する球を、攻撃手三人が集中砲火で攻め立てる構図が成り立っていた。


 攻めれば攻めるほど、魔力の消費が早くなる。最初の退場した二人は戦列復帰ならず。女門衛も魔力枯渇でリタイアのまま。代わる代わる『水壁』を得意とする選手が臨時の門衛を務め、必死に自分を……城門を守り続けている。あからさまに自分を狙う、リリアルの轟速シュートに歯を食いしばり水の精霊に縋りつくように壁を生成し続けている。


 思えば、王国に攻め寄せた百年戦争の連合王国軍にも、幾人もの賢者が帯同していたことだろう。


 土の精霊魔術で、土塁や土の槍を形成し陣地を構成、王国の騎士の突撃を防ぎ、あるいは、戦場の泥濘を水の精霊魔術で拡大し、また披露した騎士・兵士を癒して回った事だろう。


 風の精霊魔術師は法国傭兵の扱う弓銃の斉射を風の力で威力を弱め、あるいは狙いを逸らし、長弓兵の斉射の射程を延長し、王国の騎士・兵士に長い距離の矢の雨の中の突撃を演出したと考えられる。


 そして火の精霊魔術師は……騎士と足並みをそろえ、陣地で相対する王国の騎士達と干戈を交えた事であろう。

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