第740話-2 彼女は『竜の従魔』について考える
予選と異なり、これからは一戦一戦が真剣勝負。勝って、これまでの最低の待遇・予算を改善するのだと木組メンバーは士気を高めている。
「ま、来年はまた最下位だろうけどな」
「来年も、リリアル来るかもしれないっすよ!」
「来ないわよ」
適当な会話も上滑り気味。緊張の裏返しか、あるいは気持ちの高まりの影響か、いつもに増して口数が多くなる。
作戦は昨日の打ち合わせの通り。守りを『魔力壁』持ちに任せて、こちらは序盤から相手の魔力を削る為に徹底してシュートを放っていく。放てなくとも、前のめりで攻めて、一度でも多く『水の壁』を作らせることを試みる。
昨日は敢えて見せていなかったであろう『水の壁』をいきなり今日見せることで彼女たちが驚き、混乱すると考えている可能性もある。想定した上で猛攻を行うなんて、相手が驚くと思うと今からウキウキしてくる彼女である。
『お前に限っちゃ、魔力切れはねぇもんな』
彼女は当然のこと、伯姪と茶目栗毛も当然八十分の二試合程度で全力を用いて攻め立てたとしても、恐らく問題はない。いざとなれば、魔力回復ポーションも使用することができる。
灰目藍髪と碧目金髪は、赤毛のルミリに肉体の疲労をこまめに回復させてもらいつつ、魔力は節約方向で引いておくようにしている。幻の第三試合もあるかもしれないのだから、無理はさせられない。
正直、どの程度の魔物が呼び寄せられるかはわからないが、竜種単体ではなく、それに従う魔物がいれば、騎士二人が参加できるかどうかは割と重要となる。
こんなことなら、海岸の先にある城塞も下見しておけばよかったなと思わないでもない。
あとで時間のある時にでも『猫』に確認しておこうと彼女は思うのである。
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海岸先の城塞は『猫』曰く、リリアル城塞を簡素にした作りのようで、防御施設というよりも半ば倉庫と灯台・見張塔としての役割りが主であるという。
攻撃目標となりやすく、反撃しにくい構成なので、むしろ彼女自身の土魔術で防衛砦を形成する方が良いだろうというのが知見である。
『そんなことより、水の精霊魔術はお前たちが一番学びたい事だろ。試合に集中しろ。どうせ、この間は何も起こらねぇ』
「ええそうでしょうね。起こるとすれば、自分たちの試合がない時間帯でしょうから」
目の前の水派の選手には、目立っておかしな雰囲気はない。その代わり、監督役の指導賢者たちはどこか上の空、あるいはソワソワしているよう見えるのは気のせいではない。
「知ってるのが丸わかりね」
「あまり謀略が得意ではないのでしょうね」
謀略が得意なのであれば、今頃、ロマンデ公とその子孫に島を牛耳られることはなかっただろう。精霊は駆け引きするような人間を好まないということもある。言葉と心が乖離している者を嫌うといっても良い。
子供と精霊・妖精の接点が多いのも、その心根の問題もあるだろう。『子供には嘘がない』等というつもりはないが、精霊を騙す嘘をつく子供は大人より格段に少ないだろう。子供のつく嘘の大半は、親や友達に良く思われたいと願った先にあるもの。見ず知らずの精霊に自分を飾る必要はない。
そういう意味では、孤児の魔力持ちであるリリアルの子らは、見栄を張る必要も嘘をつく必要もなく、あるべき姿のまま「在る」存在ゆえに、精霊の知己を得やすいのかもしれない。
茶目栗毛や伯姪に精霊が付かないのは……お察しである。
ちなみに、姉にも精霊・妖精は近づかない。これは、見えないものが怖い姉からするとあまり近寄られたくない存在でもある。実体化している踊る草や吸血鬼のような物は別なのだが。
準決勝第一試合。水派vs木組&リリアル。門衛は最初から碧目金髪。そして、防護手の中央に気心の知れた灰目藍髪を配する。前衛三人のうち中央は『アン』、左右に茶目栗毛と伯姪、そして遊撃手の中央に彼女が陣取る。
『まあ、こんなもんか』
「四人で攻めて攻めて攻めまくるわ」
門衛は何人か用意しているだろう。だが、魔力切れまで追い込めば、休憩時に交代して新しい門衛が出てくる。一時間で回復するとは思えず、魔力回復ポーションを使用するかどうかもわからない。あれば使うだろうが、スタート時までは回復できないだろう。
先発より控えの選手の力量が落ちることは想定できる。三番手四番手になればなおさらだろう。八十分フルに使って、水派選手全体を削っていく。
その為の攻勢である。
「始め!」
ドローの零れた球を彼女が突進し確保。取り合いにワザと見せかけ、相手の選手に肩から背中を当てて吹き飛ばす。
「があぁ!!」
勢いよくゴロゴロと転がっていく敵遊撃手。昨日はどこか手加減をしていた彼女であるが、勝ち抜き戦となった事もあり容赦がない。
既に走っている左サイドの茶目栗毛に長い送球。途中で割って入る敵の遊撃手の『杖』を避けるように球がΩを描いて避ける。送球には魔力を纏わせ『導線』を使うのは当然。
思った位置で捕球をした茶目栗毛は、一旦前方にいる防護手にからだを寄せ、肩と腕で敵を吹っ飛ばし、そのままシュートに入る。
DANN!!
水派門衛は最初から『水の壁』を形成し、余裕のセーブ。しかし、これは良くない。
「まだまだ!!」
「いくっすよ!!」
拾った伯姪が、追いすがる中央の水派防護手と一対一で対峙。取りに行くと見せかけ、相手が身構えたところを『アン』が拾い上げ走り抜け、そのままシュート。
DANN!!
壁打ちのように、革の球が再び弾かれ、それを追う中央の防護手と伯姪が激しくぶつかり合う。
「ふん!!」
「のわぁ」
低い位置から肩を入れ、相手を弾き飛ばすように外側に体重をかけて伯姪は相手を吹き飛ばし、三たびシュートを放ったのである。
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