第734話-2 彼女は久しぶりに風派と会話する


 石組の賢者見習たちの特徴を一言で言えば「劣化土夫」であろうか。見た目ではない。


 木組がいわゆる『巨漢』系の賢者であるのに対して、石組はやや小柄で固太りと言えばいいだろうか、筋肉質な男が多い。人間の中では『土夫』と呼ばれてもおかしくない程度に。


 土夫は、背が低く重心の低い体格をしている。はっきり言って脚が短い。半土夫の『癖毛』も短足を気にしている。馬格の良い『戦馬』などだと、上手く乗れないのである。


 その点、小柄程度であれば走力は問題なく、身体強化に魔力を廻す分、魔力量を底上げして『劣化火派』という程度には走れる。メンバーを交代させ乍ら4Qを戦えば、常に魔力のある選手が身体強化を掛けた状態で試合に参加できるため、昨年まで交代要員もほとんどいない木組は早々に魔力を切らして負けていたのだという。


「始め!」


 ボールがドローされ、零れた球は『石組』に渡る。


 第一試合は、木組が攻撃側、リリアル5人が守備側を受け持つ。門衛が碧目金髪、三人の防御手が茶目栗毛、灰目藍髪、彼女、遊撃手に伯姪が入る。彼女と伯姪が右サイドに入り、中央が灰目藍髪となる。


 彼女達と比べれば体格も良く、華奢な遊撃手に見える伯姪が球を持つ石組選手を防ぐように立ちはだかると、周囲は一瞬ざわッとする。当然、この後起こる接触からの吹っ飛ぶ様を想像してである。


「おらあぁぁ!!」


 球を持っている選手に対して、守備側は『杖』を持つ手で肩や腕を押さえるように守ることは問題ない。反対に、その接触状態で押し勝つ分には、攻撃側も相応に反撃することは容認されている。


 球を運ぶのは、送球するか自身で相手を蹴散らして運ぶか、あるいは走力を生かして競り勝つかの三択となる。


DANN!!


『杖』を引き球を守りつつ、左ひじを突き出し伯姪を押しのけようとした石組選手は、その腕に岩の壁にでもあたったかのような衝撃を受け後方に弾き飛ばされる。 


 腰を落とし、身体強化をマシマシにした伯姪が、相手以上に低い重心で構えて迎え撃った結果である。吹き飛ばすつもりが吹き飛ばされた相手がおもむろに立ち上がる瞬間、伯姪の『杖』の先端にある『籠』が、相手の『籠』を叩き、中から球が転げ落ちる。


 すかさず拾い上げた伯姪が、下がらず待ち構えていた逆サイドの攻撃手『アン』に向かって身体強化をさらに増した送球を遥か前方に向け放つ。


「む、無理っすよ!!」

「良いから、追いつきなさい!!」


 自分に球が来ると最初から予想していた分、身体強化も走り出すタイミングも問題なかった……はず。


 遥か前方、誰もいないはずの位置に球が送り込まれ、ルーズボールだとばかりに石組防御手が拾いに走るが、後方から加速してきた『アン』はその手前で追いつき、防御手を掠めるようにすれ違うと、城門に向けて走り込み、隙を突かれた門衛が唖然とする間にシュートを叩き込む。


「一点先取っす!!」

「「「おお!!」」」


 ドスドスとこぼれ球を拾いにフォローで走っていた木組攻撃手だが、アンのフィストバンプに呼応するように腕を突き上げる。


「ま、まぐれだ」

「油断していたな」

「あの女、足が速い。マークして押さえろよ」

「おう」


 ワンプレーで、昨年までのようにはいかないと気が付いた石組。見た目ほど女子選手が柔ではないという事もわかり、気を引き締める。


 まだ余裕がある。始まったばかりであるし、選手の数と筋力はこちらの方が上のはず。それに、時間を掛ければ魔力も切れる。防御手には派手にぶつかって、後半魔力切れで足が止まったところで仕留めればよい。


 そう考えていた。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 第一Qは、まだ余裕があった。こちらも、シュートを放ち、あわや得点というシーンも幾度かあった。運が良いのか、相手の門衛の『どこか』にあたり、球は弾かれ、その球を拾われて速攻を返され、失点することもあったが、後半の体力・魔力切れを待って一気に得点を重ねられると考えていた。


 第一Qを終わって0-2と石組は負けていたが、選手の間では「まだ焦る時間ではない」という空気が流れていた。


 後半に向け体力を温存することに加え、新規のリリアル選手とのマッチアップで様子を見させようと、石組は2Qで攻撃手を全員入替えた。調子が悪かったのかもしれないという判断もあった。


「よっしゃぁ!!」


 交代した攻撃手が防御手を抜いてシュートを放つ。とはいえ、茶目栗毛はシュートしにくいように体を入れて角度を制限しつつ、ワザと放たせたという面もある。


「おりゃぁ!!」

「ですわぁ!!」


 碧目金髪の後ろのルミリの声援がウットオシイが、敢えて放たせたシュートを身体強化と魔力纏いを行ったうえで門衛用『杖』の籠にあっさりと球を収めてみせる。


 わざわざぶち当たってこちらの力量を見せるよりも、隙をわざと見せてシュートを打たせて捕球する方が、簡単に球を奪えると茶目栗毛は判断したからのようである。


「ちくしょー!」

「惜しい!! まだチャンスあるよ!!」


 得点には至らないものの、圧倒的に攻めている石組。その間、攻撃手の土組は『アン』を中心にお休みしている。体力と魔力を温存していると言い換えても良い。


 第二Qは圧倒的に攻めた石組が一点も取れずに終了することになった。





 この辺りでそろそろ「おかしい」と相手も気が付いてくる。観戦していた「風派」もザワザワとしている。


 勝った方と風組がこの後すぐに戦うと言うことを考えると、石組が走り回って得点を重ねてくれる方が、魔力と体力を消耗した状態で自分たちと戦ってくれるので「楽勝」だと思っていたのだ。


 ところが、有利なのは現状0-2で木組である。そして、木組とはいえ守備はリリアル勢が担っており、消耗しているようには見えない。体力も魔力もである。


「まるで試合巧者って感じがするで」

「そんとうりじゃ」


 ダンとセアンヘアは試合を見つつ、そんな呟きを交わす。最近すっかりご無沙汰な関係ではある。


 第三Qに入る直前、ダンは彼女に声をかけた。


「もけんどて、こそ錬してた」

「……いいえ。日常の鍛錬の結果よ」


 彼女はダンを一瞥もせずに背中越しに答える。今まだ試合中なのだ。


「そうやったか」

「ええ。次の対戦を楽しみにしているわ」

「おお」


 全く楽しみにしていそうも無い声色に一瞬たじろぎながらも、ダンは彼女から離れる。集中している彼女に声をかけても、上の空なのはいつものこと。姉なら「煩い」とバッサリ斬られている事だろう。





 第三Q、攻めさせるパターンを変えずにリリアル勢は『潰す』作戦に出た。相手がパスを出し捕球するタイミングで『ぶつかる』のである。捕球した選手に対して、腕でぶつかるあるいは、『籠』の部分で『籠』あるいは相手の腕を押さえることは認められている。


 但し、『杖』で体を押さえつける、あるいは『打つ』ことは反則となる。


 球をわざと送球させる、あるいは確保したまま前進する石組攻撃手に対して、リリアル勢は立ちはだかり、体をぶち当て動きを止めた後、魔力を『籠』に纏わせ、相手の籠の中の「球」を「飛燕」で打ち弾き飛ばす。


 彼女を始め、伯姪・茶目栗毛・灰目藍髪は全員「飛燕」が扱える。魔力纏いが可能である魔装縄で補強した『杖』であれば、飛燕を発動させる事が可能である。


 そんな形で、第三Qは再びスコアレスのまま第四Qへと移ったのである。





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