第734話-1 彼女は久しぶりに風派と会話する

「ごぶさたしちゅうが。のうはどうやろーか」

「ボチボチね」

「お久しぶりね。調子はわるくないわ」


 今日は予選試合の当日。朝から鍛錬場には多くの賢者見習が集まっている。試合に参加する者、応援する者、そして偵察する者。万年最下位の木組の試合に注目する者は本来いないのだが、今年は『余所者』がそこに加わるので、試合の見学者も少し多いようだ。


 来院当初は色々面倒見てくれていた風派の『ダン』とも半月ぶり程の再会となる。ダンを含め、風派はリンデの宮廷からリリアルの情報を集めるようにとでも言われているのだろう、接触しようとしているのだろうが、既に学外の領主館に滞在しており、昼食時間以外ほぼ接触する機会がない。


 講義の時間を外して昼食を利用しているリリアル勢は、基本的に食堂の利用時間が在校生とずれているのだ。なので、同じ講義に参加していなければ顔を合わせることすらない。


「そちらはどうなの?」

「悪くはない。素はよぅ動くのは得意やき」


 単純な願い事であれば、事前に頼んでおくことも問題なくできる。風派の場合、風の精霊に身体の速度強化を頼んでおけば、身体強化と別枠で加速することができるのだろう。素早く動けるという点だけで言えば、とても競技向きの加護・祝福である。


「ねえ、聞いても良い?」

「敵に情報を渡すわけにゃいかん。らぁてな」


 ダンは言うだけ言ってみろというので、伯姪は聞いてみることにした。


「精霊に速度強化を頼むと、継続して魔力って持っていかれるのかなって」

「もちろんじゃ。ながで、試合の間に選手は交代しながら魔力を節約する」


 どうやら、それなりに魔力を消費してしまうので、全く参加できない祝福持ちもいるようだ。加護持ちならともかく、祝福持ちでは魔力の消費量がかなり多くなるのだろう。


「そういう鍛錬の場でもあるのでしょうか」

「そうじゃ。精霊の祝福持ちといえども、魔力が増えるわけがやない。

使い方を学ぶための競技でもある」


 賢者学院の『ラ・クロス』の運営も、鍛錬の一環であるのはリリアルと同じこと。身体強化や模擬戦の前段階としての鍛錬と考えているリリアルと比べると、各派の力比べの面が少なくない気もするのだが。


「やっぱり、火派が強いの?」


 伯姪の質問に、ダンは「見ればわかる」といいつつ、身体強化の使い方が上手い分、風の精霊魔術で常時加速している風派よりも運用が柔軟でフェイントや緩急をつけた試合運び、あるいは連携に長けているという。


「傭兵としての運用を前提としちゅう分、最も実戦的なもんなんろうな」


 その分、魔力の消費量は増えるだろうが、連携とメンバー交代を頻繁に行う事で戦闘力を維持する作戦のようだ。旧木組なら、魔力切れ体力切れのあと、蹂躙されるしかないような戦い方である。


「わしらと戦う時は要注意じゃ」


 風派と戦う時は、常に向かい風。相手の勢いは増し、こちらの勢いは削がれることになる。目に砂でも入れば、大変なことになるだろう。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 予選の二試合、対戦相手は『石組』と『風派』である。


「朝一から消化試合かよ」

「こいつらだけは、毎年必ず二日目は休めるからいいよね」


 好き勝手言うのは第一試合の相手である『石組』である。木組が土派の主流であるはずなのだが、少数・不人気であるのは、その精霊魔術の運用が古典的だからである。使い勝手が良くないと言い換えても良い。


『石組』は、錬金・石材の加工などに活路を見出し、火派寄りの活動を模索している一派でもある。故に、身体強化に力を入れているので、走れない木組に対して有利であると「錯覚」しているのだろう。





「それで、どうするっすか!」

「勝つわよ」

「勝つに決まってるじゃない」


 そういう問題ではない。最初から手の内をすべて見せる必要もない。第一試合は「走れない木組」という昨年までの仕様を覆す時間にしようと彼女は考えている。


「門衛以外は魔力壁無しでいきましょう」

「了解」

「わ・た・し は使っていいんですかぁ」

「失点しないようにね」

「ですよねぇ」

「ですわぁ」


 因みに、水魔馬の力を直接借りるのは「不可」となっている。『ラ・クロス』の試合の中、一人だけ『ポロ』になるのはよろしくない。


「オイラ、頑張るからよぉ!!」

「いらない」

「なんでだよぉスウィーティー!!」


 魔力壁で城門自体を閉ざしてしまえば失点はしない。が、種明かしを早々するつもりもないので、常時展開するつもりはない。そもそも、彼女ではないのだから、碧目金髪には試合中ずっと魔力壁出したままということは魔力量的に無理なのである。


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