第731話-1 彼女は人狼の答えを聞く
『なにこれおいしい!!』
フィナンシェに感激するリリ。花の蜜くらいしか甘味を知らないので、大興奮である。
「あまり飛び回るものではありませんわぁ」
『リリ、飛ぶのとくい!』
「じっとしているのが得意の方が、カッコいいですわぁ」
『……じっとしているのも……とくいだもん……』
ルミリの肩に乗り、じっとしているリリ。そう、子供は「できる」「かっこいい」が大好きである。大して続かないのではあるが。
「それで、腕を斬り飛ばした理由を聞きましょうか」
伯姪が話を仕切り直す。吸血鬼の死霊術師が、この界隈の『野良狩団』を作り上げていたと推測される事。その為に、古い戦士団の墓所を暴き、今回はその指導者をデュラハンとして蘇らせ、『ボアロード』の地で彼女たちを待ち伏せていたこと。
「それはあらかじめ解っていたことでしょう?」
「そうね。でも、この男は私たちがデュラハンと対峙している間に逃げ出したのよ」
「それは、腕くらい斬り飛ばされるわね」
そこに、灰目藍髪が事実を付け加える。
「加えて、愚にもつかない言い訳を並べ立てて、煙に捲こうとしたのです」
「なら、首でも問題ないわ」
「ですよねぇ」
「ですわぁ」
首を刎ねても問題ないらしい。貴族家の当主を騙したのであるから、処刑されてもおかしくないという判断になるのか。これは、誰が誰を騙したかでしかないので、王国でもこの国でも処刑されるだろう。
「騙したつもりは……」
「残った腕は大切にした方が良いわよ」
「……」
それだけでなく、水派の密偵として行動し、尚且つ実は女王陛下の王宮の二重密偵であるというのだから話にならない。
「元々、王宮の依頼で動いているんだ」
「だから何? 私たちに同行して情報を抜こうとし、抜いた情報を利用して水派の賢者に取り入ってさらに情報を得る。その情報を本来の雇い主に報告して報酬を得ているということなのよね」
「元手が掛からない商売ですぅ」
「丸儲けですわぁ」
命を元手にするからこその利益率である。今回の対価が腕一本というのは儲かっているのかどうかは不明だが。
「まあ、腕は返しても良いわ。吸血鬼を討伐するのは大した手間ではなかったし、死霊術師を一体減らせたのは僥倖だもの」
「それは、討滅したの?」
「いえ。先生の収納に保管されています。その話はあとで」
一先ず、人狼をどう処するかを定めるのが先決である。
「まあ、これっきりでいいんじゃない?」
伯姪は殺さず追放という方向でよいのではという結論を伝える。彼女ももはやどうでも良い気になってきているのだが、一部納得がいかない騎士と商人見習がいる。
「処分が甘いと思います」
「同意です。リリアルを舐める輩が今後現れかねません」
「搾り取れるだけ搾り取るべきですわぁ」
自分の命を自分で値付けさせればよいと、赤毛のルミリの言である。
「そうね、先ずは狩猟ギルド経由で依頼を出させましょう」
曰く、狩猟ギルドを仲立ちにして、腕の回復の指名依頼を彼女に人狼が出す事にする。その依頼料はなんとぉ!!
「金貨百枚ね」
「……払えるわけがねぇ。十枚でも無理だ」
騎士の全身鎧でも一般的なもので金貨二枚でお釣りがくる。兵士の中隊長クラスで年収金貨十枚。牛なら金貨一枚で十頭は買えるほどである。
「いいのよ、分割で。そうね、毎年金貨二枚の五十年払い。その間に、こちらからの指名依頼を受ければ、相応に支払い相当として借入から充当して減額することにするわ」
つまりは、借金の首輪を嵌めるということである。
腕の治療費として金貨百枚は高いか安いかは本人の価値観による。右腕が無ければ狩人としても戦士としても活動は不可能だろう。中には右手の義手に剣を仕込んでなんてヨタ話もあるが、剣の操作には手首や肘の動きによるものが相当含まれる。腕から生えた剣で何ほどのことができるかというのは疑問でもある。
「決断は早い方が良いわよ。幾ら人狼でも、治りにくくなるでしょうから」
「……わかった……」
人狼は急ぎ、再び
特別会員なので処理もスムーズに進み、支払いもギルドが保証する形になるだろう。会員同士のトラブルになりかねないので、ギルドも相応に協力することになる。
人狼は、煤けた背中を見せつつ、漁師に船を出してもらえるように依頼をするのであった。
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