第730話-2 彼女はピクシーと共に賢者学院に帰還する

 支部長の好意で、ギルドの宿泊施設を利用できることになる。とはいえ、四人で同室なので、小さな大部屋のようなものである。食事は手配してもらえたので、暖かいものを口にする事ができほっとする。


「特別会員ですか。副院長先生を差し置いて、良いのでしょうか」

「良いのよ。そもそも、狩猟ギルドにこの後足を運ぶ可能性のあるのは、私たちより、あなた達になると思うもの」


 院長・副院長が白亜島を再度訪れ、情報収集やギルドでの依頼受注をするとは考えにくい。一期生の二人が持っている事で、指揮官として部隊を率いて密かに渡海してくることもあるだろう。その方があり得る未来だ。


「どんな特典があるのでしょう」

「さあね。正会員と同様のサービスを、依頼受注件数無視して利用できるといったところではないかしら」


 ギルドの正会員になるには、一定のノルマを毎期こなす必要があるという場合が少なくない。足切りに達しない場合、会員資格を失うといったペナルティがあるのだろう。幸い、冒険者ギルドにはその辺りのペナルティは無いので、リリアルの冒険者組も降格を気にせずに済んでいる。


「王国の冒険者ギルドで偶には私も依頼を受けないといけないのかしらね」

「……薄紫の冒険者はそういった規定は無いと思います」


 あるのは薄黄以下の冒険者である。見習期間中は半年ごとに依頼の受注数で確認されており、満たない場合は降格となる。これは濃黄以上になれば降格査定の対象から外れる。薄黄までは『半人前』扱いであると言えばいいだろうか。


「査定が楽しみね」

『細かいこと気にしてるよなお前』


 依頼達成報酬は規定通りであるとしても、買取素材の査定は気にならないはずがない。吸血鬼の装備していた武具・馬具の類も回収してある。どの辺りの工房に造らせたのか調べれば、吸血鬼と関わりのある商会や地域が特定できる可能性がある。それなりに価値もあると思われるので、老土夫やシャルリブルらも興味を持つだろう。


『そんなことよりー お話したいのー』

「そろそろ良い妖精は寝る時間でしょう」

『妖精、寝ないよな多分』


『魔剣』も『猫』も睡眠を必要としない。今も『猫』は宿舎の周りを警戒しているはずなのである。


『みんながねるならーリリもねるー』


 ということで、腕がうずいて眠れない若干一頭を除いて、眠りについたのである。





 翌日、早々に宿舎を出る。馬車で向かえば、丁度、干潮のタイミングで歩いて渡れそうな時間となる。馬車を仕舞う事になるが、船を手配するより帰る時間が読めるので面倒がない。


 昼過ぎには領主館へとたどり着いた。


「あら、腕はどうしたの!」


 伯姪の第一声は当然のこと。とはいえ、人狼が怪しげな動きをしていたことは把握しており、何らかの仕掛けが為された結果であることは明白。普通であれば、彼女がその場で治療しているはずなのである。生身の人間ならともかく、治癒力・回復力に優れた人狼の腕を接ぐことはそう難しくはない。


「ちょっとカッコいいかもですぅ」

「えー 怖いですわぁ」


 手足の欠損がある者を目にする機会はないではないが、昨日の今日で変わり果てた姿で会うというのは、赤毛のルミリには刺激が強すぎるのかもしれない。一期生はゴブリンや盗賊討伐で手足を切り飛ばすのは、自分たちが良くすることなので大して気にも留めない。


「お茶の用意をお願いするわ」

「畏まりましたわぁ」


 赤毛のルミリにお茶の用意をさせ、人狼を食堂の椅子に座らせ、全員がその周りに座る。


「ねえ」

「何かしら」

「また、何か拾ってきたのでしょう? 紹介してもらいたいわね」

『リリなの!!』


 彼女の頭の上にちょこんととまるピクシー。腰に手を当て、胸を張っている。何故どや顔。


「この子は、吸血鬼に囚われていたインプの一体で、私の魔力を与えて解呪? したところ『ピクシー』になったのよ」

「それで?」

「付いてくるというので、同行させたのよ」

「「「なるほど(ですわぁ)」」」


 居残り組三人は既に三体の精霊をこの親善行の間に連れているので、さらに一体増える程度はもう気にしないことにしていると思われる。


「まあ、小さいから良いわよね」

「ひでぇよぉ、オイラの方が先輩なんだぜぇ!!」

「いや、あんた同行許可してないわよね」

「ええ。付きまとい行為ですもの。連れて行くつもりもないのだから当然ね」


 何故か? 手乗りサイズの餌も食べないピクシーと、山羊頭の毛深いオッサンでは心の重さが全く異なる。馬の代わりになるわけでもなく、ちいさな蛙というわけでもない。脚も山羊であるし。


「雌なら、山羊のミルクを取るために飼うという事も考えられますが、雄ですし」

「役立たずすぎますぅ」

「ですわぁ」


 あんまりだを連発する山羊男。だが、役立たずは否定できない。


「オイラも、人化して、マイスウィーティーの従士になるってのはどうだ!!」


 碧目金髪も正式に王国の騎士となった。従士一人くらいは控えさせてもおかしくはない。それに……


「セバスもそろそろ国に帰ると思うのよね」

「国に送り返すの間違いじゃない?」

「セバス氏、仕事できませんからね!」

「歩人の癖に、土魔術ケチるとか、彼奴、信じられないわよね」


 歩人であるセバスは、本来土魔術に関してはそれなりに使えなければおかしいのだ。にもかかわらず半土夫の『癖毛』の足元にも及ばない魔力量と魔術の能力なのだ。恐らく、成長期に努めなかった結果ではないかとリリアル生の中では囁かれている。


 反面教師・セバスとして、二期三期生には特に知られている。


 山羊男は『風』の精霊であるし、加護を与えることで碧目金髪の能力も底上げとなる。今後、船の操作で『風』の精霊の加護持ちはいても良いと彼女は考えている。なので、未だ保留している。


「それでは、『ラ・クロス』の大会まで、仮想・風派として協力して、その間人化し続けられるなら、随行することを許可しましょう」

「ええぇぇ……」

「公認付きまといね!」

「ですわぁ」


 碧目金髪の嫌がる素振りを無視し、山羊男の同行に許可を出す。


 火派は手のうちと能力も凡そ見当がついている。土派は木組がいれば想定できる。水派は水魔馬と金蛙の協力で再現できるであろうし、残るは風派対策だけである。故に、山羊男を活用することにしたのだ。


「気に入らなければ、サヨナラすればいいだけよ!」

「綺麗な振り方、姉さんに教えてもらえば良いわ」

「で、ですかぁ」

「ですわぁ」

「そりゃねぇぜぇスウィーティー」


 最初から利用されるだけであると宣言される山羊男。不幸である。



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