第728話-2 彼女は死霊使い(仮)を尋問する
『主、どうされましたか』
「アレはまだ中に」
『おります』
「そう」
彼女は城壁下の横穴の前に立ち、『土壁』で穴の開口部を塞ぎ、さらに『堅牢』をかけ、完全に固めることにした。
『閉じ込めたな』
「ええ。これで昼までぐっすり眠れそうだわ」
彼女は改めてゆっくり眠る為、野営地へと戻るのであった。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
翌朝、日が高くなった後、彼女と灰目藍髪、茶目栗毛はデュラハンとギャリーベガーが現れたと思われる『ボアロード城』の城壁の下に穿たれた横穴、恐らくは滅びた先住民の王国の墓所を訪れることにした。
「先生、ルシウスは戻ってきませんでしたか」
「ええ。彼は既に、先行しているわ」
「なるほど」
灰目藍髪は素直に理解したようだが、茶目栗毛は彼女の言い回しに含みを感じたようで黙って頷いている。
横穴の前まで三人が到着すると、真新しく他の場所とは異なる土で固められた場所をみつけて、一人は驚き一人はやはりといった雰囲気となる。
「さて、穴を開けた途端跳び出されても困るわね」
彼女は背後に『土壁』を半円状に形成し、横穴の出口を数メートルの壁で取り囲みさらに硬化させた。その上で、穴を埋めた土壁の『堅牢』を解除した上で、玉葱メイスを肩の高さに構え、緩んだ土壁の上半分を魔力を纏ったそれで思い切り突いた。
DONN!!
『があぁぁ』
メイスの柄の半ばほどまでが穴の奥へと入っただろうか。顔が入る程度の大きさに穴が穿たれ、再度『堅牢』がほどこされる。先ほどの叫び声はおそらく、壁の前でなにやら行っていたであろう、人狼のものであると思われる。
「ルシウスおはよう、起きたかしら? 外は良い天気よ」
穴の中に向けて、彼女は声を掛ける。しばらくして、中から返事がある。
「あ、ああそうか。無事だったんだな。なによりだ」
「ええ。あなたが吸血鬼に驚いて逃げ出して、こっそり戻って来たあと、夜の間に横穴に入り込んで、何やらやっている事に気が付くくらいにはね」
茶目栗毛は頷き、灰目藍髪は驚きからやがて怒りへと相貌が替わる。
「先生、処分しても?」
「いいえ。話くらいは聞いてあげましょう。鶏頭ならぬ、狼頭でどんな言い訳をするのか興味があるのよ」
腰の剣を抜こうとするのを止め、彼女は一先ず話をする事にした。
「中には何があったのか教えてちょうだい」
「た、宝のようなものは無い。石棺……石の棺がある。それと、『インプ』がいる。使い魔であったようだ。今は、悪さをしてこないようだ」
穴の中から、一匹の蝙蝠のような羽の生えた色黒で耳の尖った魔物が現れる。何故か、連合王国の妖精は醜悪な容姿の者が少なくない。これもその一つだ。夢も希望もない。
『ガァ、ジユウ、ワレ、ハナタレル、ニゲル』
インプというのは、洞窟に住む妖精の一種だと彼女は聞いたことが有る。悪戯をするようだが、ゴブリンのように人を襲う事は無い。どうやら、インプは墓所に住んでいたところに吸血鬼がやってきて、『使い魔』にされたというところだろう。
「さて、どうしたものかしら。行きなさいといっても、この横穴に住んでいたのでしょうから、逃がしようが無いわね」
『お前の魔力をちょっと与えてみたらどうだ』
『魔剣』曰く、もしかすると吸血鬼から命令を受けて、この場に留まらざるを得ないのではないかというのである。
『それと、この横穴、塞いじまうんだろ? インプも一緒にってのは可哀そうじゃねぇか』
確かに。醜悪な姿とはいえ、特に人を害する妖精ではないだろう。それに、下手に封印まがいの事をして、恨みに思ったインプがより凶悪な存在になることも避けたい。
「逃がしてあげられるかどうかは分からないのだけれど、私の魔力を少しもらってちょうだい」
穴から出てきたインプは、蝶のようにというには些かかわいげのない姿なのだが、差し出した彼女の指先にちょこんと止まって見せた。
『イタダキマス』
「……礼儀正しいわね」
指先から彼女の魔力が吸い出されていく。インプの肌が白くなり、緑の髪の毛が生えてくる、そしてやがて羽は蝙蝠のそれから、蝶のような羽へと変わっていく。
『こりゃぁ』
「なにかしら。姿が替わったわね」
『妖精なんだが……ピクシーとか言ったか。この辺の妖精じゃねぇな』
ピクシーは湖西国周辺でみられる妖精の一種である。見た目は可愛らしいが、やることはインプと大して変わらない悪戯者だ。
『きもちいいぃ!! 力も満タン!!』
「そう。それはよかったわ。あなたは自由よ。さあ、お行きなさい」
ピクシーは羽を羽ばたかせると、彼女の周りを二度三度と回り、カーテシーをしたのち、空高く去っていった。『じゆうだぁ!』という、歓喜の声を残して。
さて、ピクシーを一体解放したのだが、穴の中にはまだ何匹かのインプと謎の石棺、そして幾つかの副葬品と『人狼』が残っている。
「インプは問題なさそうね。問題は、あなたよ」
『……その、話を聞いてもらえるか』
「ええ勿論よ」
彼女はにっこり微笑み、土の壁を取り除いた。
中から出てくる人狼。
「その、迷惑かけたな」
「いいえ。気にしなくていいわ」
彼女は右手を差し出し、人狼も右手を伸ばす。
その瞬間、背後から飛び出した茶目栗毛は、魔銀剣に魔力を纏わせ、人狼の右手を肘の辺りから斬り飛ばしたのである。
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