第727話-2 彼女はデュラハンを討伐する

 様子を見つつ、代わり映えのしない『火槍』の攻撃をかわし、徐々に吸血魔術師へと寄せていく。灰目藍髪はこれ見よがしに馬首を左右させ、時折『魔装銃』で馬上から狙撃を行う。


 放つ弾は彼女の魔力の籠っている『魔鉛弾』である。一度命中し、シュウシュウと浄化が始まる玉の威力に気が付き、二回目からは弾丸を回避しようと回避するようになる。


 魔術師と並んでいるもう一体の吸血鬼にも牽制の銃弾を放つが、鎧の性能が良いのだろう、弾丸を弾いてしまうので効果がないと判断する。


Thig sìosいい加減に墜ちろ! !』


『火槍』の連射を維持することと、魔装銃の射撃に注意を払っていた魔術師はすぐ目の前まで気配を消して迫っていた者に気が付くのが一瞬遅れた。


『uagh !!』


 構えた腕の肘から先が斬り飛ばされ、そのまま剣は滑るように首元に刃を差し込み切り飛ばす。瞬間、もう一体の吸血鬼に彼女は飛び込んで剣で斬りつけるが


PAANN !!


 魔力壁に似た何かで剣を弾かれた。


『お前の魔力で斬れねぇってどういうこった』

「さあ。そういう敵もいると言うことよ」


 彼女はともかく、討ち損じたのをはじめてみた二人は一瞬動揺する。


「攻め続けるのよ!!」


 はっとして、茶目栗毛が背後に回り込み、馬上の騎士の鎧の隙間を狙う刺突を次々と繰り出すが、馬上であるがゆえに、簡単に体を捻って躱されてしまう。


『馬だろ!』

「分かってるわ」


 バイコーンの前足を二本とも伸ばした剣身で斬り飛ばす。膝から下を斬られたところで、前のめりに吸血鬼も地面へと落下する。


GAINN!!

 その隙を突いて、背後から斬りかかった茶目栗毛の剣が弾き返される。

その装備はメイルではなく、ブリガンダインのような板金を張り巡られた鎧であるようで、尚且つ、茶目栗毛の魔力量では切裂けない程度の魔力に対する抵抗力があるようだ。


PANN!! 


GAAAA!!!!


 立ち上がる吸血鬼に銃弾が命中する。先ほどよりも距離を寄せた灰目藍髪の射撃で、鎧を貫通したか、板同士の隙間を抜いたか、弾丸が吸血鬼の体に吸い込まれ、絶叫が上がる。


 体から、魔力が煙のように立ち上り、どうやら魔鉛弾に込められた彼女の魔力により、体内から「浄化」されつつあるようで、先ほどまでの余裕ある状況ではなくなり、体を滅茶苦茶に動かし地面を転げ回っている。


「痛みに弱い吸血鬼ね」

『吸血鬼ってのは、感覚鈍くなってるんじゃねぇの生きてる時よりよぉ』


 四股切断となれば、生身の人間ならショック死しかねない痛みを伴うものだろう。事実、処刑の方法として存在するくらいだ。その状態でも、吸血鬼は大した痛がりもせず結構長く生きている。年単位で。


「止めを刺しますか」

「いえ。少々お話しましょう。でもその前に」


 彼女は魔法袋から魔装拳銃を出し、一発、二発と玉を吸血鬼の腕や脚へと叩き込んでいく。


『ヤ、ヤメロヲ……』

「あら。それが人にものを頼む態度かしら」


PANN!! 


 近寄って来た灰目藍髪が、魔装銃の弾丸を一発、吸血鬼の背中へと撃ち込んだ。


『ギィィィ!!!』


 彼女はそのまま、サクサクと魔力を多めに込めた『魔剣』で腕と足を切り飛ばしたのである。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 吸血鬼に関して言えば、これまで「首を切り飛ばせば殺せる」という前提で討伐してきた。これは今回も変わっていない。しかしながら、魔力を込めた装備で簡単に斬り飛ばせなかった点が解せない。


「先生、このブリガンダイン風の装備に、何か仕掛けがあるようです」


 うつ伏せになっている最後に討伐した吸血鬼の背中の部分の留め具を外させる。すると、内側の鋲にあたる部分に、金属ではなく、魔水晶のようなものが填め込まれているのが確認できる。


「これは、何かしら」

「おい。この鎧の仕掛けについて説明しろ」


 低くドスの利いた声を出す茶目栗毛。吸血鬼の顎をブーツのつま先で蹴り上げ、さっさと話せと怒鳴りつける。意外と怖い。


『自分デ調ベルコトダ』

「まあいいでしょう。それに、コレには色々ききたいことがあるもの。他の吸血鬼の首は斬り飛ばしてもらえるかしら」

『……ナッ……』


 彼女にとって、騎士の吸血鬼も、魔術師の吸血鬼も必要のない存在である。後日、リリアル生と関係各位に「吸血鬼の中には強力な魔術を使う者がいるので、注意されたし」と伝える必要があるという程度である。


 しかしながら、今回、そして先日の『野良狩団ワイルド・チェイス』との遭遇。そこには、この上等な装備を身につけた吸血鬼が関わっているのではないか

と考える。


「ねえ、あなた、三年ほど前にデンヌの森周辺で、アンデッドを大量に召喚した記憶はないかしら」


 吸血鬼の死霊使い。ネデルにいる可能性の高い吸血鬼の貴種とその配下に、死霊使いの吸血鬼が幾人かいるのであるならば、ミアンに攻め寄せた一万を超えるアンデッドの発生も十分可能なのではないかと彼女は考えたのである。



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