第726話-2 彼女はデュラハンと対峙する
『Maitheanas! ! Maitheanas! !』
何やら、聞きなれない言葉を発するデュラハン。言葉を発するというのは知らなかった彼女は、少々驚く。
「何を言っているのかわからないわ」
『こいつらの言葉なんだろう。俺も知らん』
声が聞き取りにくいだけでなく、耳慣れない言葉。
『marbhadh! ! Marbhaidh mi thu gu cinnteach! !』
しかし、その言葉に乗る明確な殺意はひしひしと感じる。
「ロマンデ公に敗れたのか、入江の民か、あるいはほかの先住民に負けたのかは知らないけれど、あなたは負けて、あなたの国は滅んだの。いつまでも、この世に未練がましくしがみつかないでちょうだい。甚だ迷惑だわ」
『Dùn do chab! ! Na bi gòrach! !』
更に激昂するデュラハン。
『おまえ、煽りすぎ』
「滅んだ国の死んだ君主なんて、いつまでもこの世に留まるべきではないでしょう。なにも変わらないし、何も為しえないのだから」
背後では、バイコーンが倒され、ようやく吸血鬼と二人の対峙が始まる。人狼の姿は相変わらず見えず、残る二体の吸血鬼はこちらを静観しているのが見て取れる。
「いつまでも、関わっていられないわね」
『ちげぇねぇ』
『魔剣』に持ち替え、使い慣れたバルディッシュの姿へと形を整える。
『そういや、デュラハンは金貨が苦手だったような気がするぞ』
「金貨をばら撒いて追い払って何になるの」
デュラハンの滅し方がわからないのは、討伐できる対象ではなく、その存在を遠ざけるしかないと考えていたからだろう。とはいえ、この世に止めるべきとは再三思えない。
「消し去りましょう」
『吸血鬼は』
「首を刎ねれば同じこと。どうということはないわ」
吸血鬼討伐は慣れたもの。デュラハンはそうではない。実体はあるものの、その実、ワイトの様に死体に死霊が憑りついているのとは違うように思える。
「一先ず、斬りつけてみましょう」
『そればっかりだな』
「他に代案は」
『ない』
馬上からグレイブ擬きを彼女に振り下ろすデュラハン。こういう時は、手綱を持つ左手側に避けるものだ。裸馬では踏ん張りも利かず、両手で槍を持つことも難しい。が、それは生身の場合。
『うぉっ!!』
GINN!!
首無馬故に、馬の頭が妨げになることもない。どうした事か、鞍と鐙があるかのように安定して馬上に下半身を固定し、グレイブ擬きを両手に、デュラハンは次々と斬撃・刺突を彼女に向けて来る。
手綱は無くとも主の意思を読んでか、綱にグレイブ擬きの届く範囲に彼女を位置させるように、馬が足を動かしている。
『便利な馬だな』
「まさに人馬一体ね……くっ!」
体を捻り、その切っ先を躱すが、長柄のバルディッシュを持って走り回るのは難しい。
『サクスに変わるぞ』
『魔剣』に言われ、不承不承の変形を承諾する。片手に剣を持ち、片手には魔銀鍍金のスティレットを構える。スティレットで弾いて、剣で斬りかかるつもりで姿勢を低くし首無馬の足元へと飛び込む。
馬の脚をスクラマサクスで斬り、反撃の刺突が来る前に馬の後方へと移動し、再び後脚に魔力を纏った斬撃を加える。
転がり、斬撃を加え、切っ先を躱し後脚を削る。その繰り返し。
恨みの深さか、何かしら死霊魔術で強化されている想いなのかはわからないが、幾度も斬りつけ魔力を流し込んでも、デュラハンの実体が朧げになる様子はない。
『どこか別のところに本体があるとかか』
「いいえ、目の前のそれから魔力を感じるのだから、それはないでしょう」
魔力量は減っているものの、それは彼女とて同じこと。魔力と魔力の削り合いであるのだから当然だ。
「先生!! 倒しました!!」
視界の端には、横倒しになった漆黒の馬、そして、手足を失っているように見える吸血鬼が見て取れる。
一旦、デュラハンから後退し、倒した吸血鬼の元にいる二人に声を掛ける。
「そのまま、二体を監視しながら倒した吸血鬼を確保」
「応援は」
「必要無いわ」
二人の魔力は決して多くない。デュラハンを倒す方法を思いつかない以上、吸血鬼と人狼に警戒させておく必要がある。削り合いに巻込むには心元ないからだ。
『ピンチか』
「ええ。ちょっと時間が掛かりそうね」
一息ついて、デュラハンへと向かう。正面からグレイブ擬きを振り下ろすデュラハンの切っ先を躱し、後ろに抜けながら再び馬の脚を削る。が、さほど身じろぎもしないのは相変わらず。
『おい、正面に回れ』
「なに」
『いいから!!』
『魔剣』はデュラハンの正面に回れという。長柄と剣では間合いで圧倒的に不利なのだが。
『見つけた』
『魔剣』はどうやら、デュラハンのカラクリに気が付いたようだ。
「もったいぶらないで教えなさい。この愚剣が」
『おい、教えねぇぞぉ!!』
彼女は苦戦するなか、『魔剣』に教えられるのが甚だ面白くないのだが、なぜか懐かしい気持ちになるのである。
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