第724話-1 彼女はウイックで特別依頼を受ける

「では、行ってまいります。留守をお願いしますね」

「任せておきなさい!」

「あー いいなー その光る玉〇付の杖ぇ~」

「そ、そうですわぁー 光る〇金ですわぁ~」


 金色のタマネギに見えるそれ。魔銀の塊では硬度がでなかったため、敢えて魔鉛の合金で形成している。魔銀より低コストで尚且つ、強度も高められたので問題ない。光る金の玉ねぎである。


「なら、あなた達の分を置いていきましょうか」

「いらないわ。あなたの姉の気遣いだけもらっておくわね」

「いらないですぅ」

「破廉恥ですわぁ」


 彼女は『破廉恥』と称される意味が分からなかったが、そう思われてもおかしくない仕様に姉が意図的に持って行ったことは理解できた。とはいえ、旅の恥は掻き捨てである。


「この東方風のメイスは、馬上でもバランスを崩さずに使えて良いと思います」

「メイスとしても、スタッフとしても振るえますので、乱戦においては徒歩でも相当使えると思います」

「そうよね。良い装備であれば、問題ないわ」


 アンデッド相手に、ピックやフィンのような点や線で打撃を与える装備はあまり効果がない。故に、打撃そのものを伝えるか、魔力を伝えられる形状であれば問題ない。刺さったり欠けたりする方が、問題となるだろう。


 領主館に人狼が現れる。ここから漁村へと向かう事になる。


「待たせたか」

「いえ。ちょうど良かったわ」

「ルシウス、頼んだわよ!!」

「ああ。行ってくる」


 彼女達一行四名は『猫』を伴い、巡礼服を身に纏い船でウィックWickへと向かう。今回の干潮時間が夜中であったので、人狼の手配で漁船に載せてもらい対岸へと渡ることになったのだ。





 小さい船だが大丈夫かという質問に、彼女は「慣れているわ」と答えた。人狼と漁師は「大きな船に乗る際に、小舟で岸から向かう事に慣れている」と理解したが、今載せられている漁船より一回り大きい程度の魔導船で王国と白亜島の間の海を渡って来たと知れば、別の意味で驚いただろう。


 対岸に渡り、『ウィック』の狩猟ギルドへと入る。受付とすでに何度か面識のある人狼が「特別依頼」の件だと話を切り出す。


「受けていただけるんですね。賢者学院へ話を伝えたのですが、適任者がいないということで、断られてしまって困っていたんです」


 断られるほどの難易度の高い依頼なのだろうかと彼女は考える。


 とはいえ、既に受ける腹は決まっているので、そのまま依頼登録を進める。


「今は臨時会員……」

「ええ。問題がありますでしょうか?」

「しょ、少々お待ちください」


 人狼が正会員であることから、同行者も同じだと考えていたようだ。臨時会員の多くは「正会員」になるだけの実績を積んでいない言わば『見習』に過ぎない。故に、賢者学院でも依頼を断る難易度の「特別依頼」を受けさせることを受付では判断しかねたのだろう。


 暫くすると、奥へと通される。扉の中は応接室兼執務室であるようだ。


「ルシウスに……その三人が今回依頼を受けると言っているんだな。臨時会員だとか」

「臨時会員の『リックス』と申します。巡礼の旅の際に、狩猟ギルドでの一寸した依頼を受けておりました」


 彼女の言葉を鼻で笑うような雰囲気で受ける男。灰目藍髪から剣呑な空気が立ち上る。が……


「そもそも、狩猟を生業とするギルドにアンデッドの調査依頼など、務まるわけがないからお困りなのではありませんか」

「な、なんだと」


 口にしたのは茶目栗毛である。


「誰も依頼を受けないから『特別依頼』としたのでしょう? 我々は敬虔な御神子教徒であり、リックスは修道女見習をしていたこともあるのですよ」

「……修道女……この国ではとうの昔に……なるほど、そうか。解った」


 一つのヒント修道女見習。連合王国ではすでに修道院が解散し三十年が経過している。修道士も修道女も還俗させられており、その年齢は初老にさしかかっているものが大半である。彼女が見た目通りの年齢であるとするのであれば、その理由は一つしかない。「北王国」出身の貴族の娘であるということになる。


 恐らくは偽名、そして、北王国の貴族の娘が連合王国へ巡礼しているとするならば、その聖地はダンロムDunlmeであると考えられる。ディズファイン修道院を守った成人の遺骸を新しく祀った場所がダンロムの礼拝堂であり、それが司教座となる端緒となったのだ。


「なら、話しは早い。いや、細かいことは言わない。この依頼を達成したならば、四人は全員『特別会員』にする」

「それで、その依頼の内容について、細かく伺いたいのですが」

「勿論だ」


 依頼主は表向き、調査先の村長ということになっているのだが、その土地は『ダンロム大司教領』であるため、大司教領の家宰と思われる人物からの内々の依頼となるのだという。


「『ボアロード城』ですか」

「ああ。その城自体の持ち主は西メリィ伯ルビィ家の所有することになる」

「ならば、直接伯爵家に問い合わせる方が良いのではありませんか」


 灰目藍髪の問いにギルドマスターは「返答がない」と答える。


「他領の村長とはいえ、恐らくは騎士か郷士の身分を持つものでしょう。無視するというのは」

「ここでは当然だろう? 領地が異なれば法律も異なる。大司教領は独自の法も裁判所も通貨の発行の権利も持っている。それは、西メリィ伯も同様。些細な事でいちいち外交的な交渉など成り立たない」


 同じ国の中とはいえ、連合王国の諸侯領同士は他国同然ということなのであろう。百年戦争以前は、王国でもそうであったと聞く。それぞれが独立した存在なのだ。


「だから、狩人として中に入って調査して欲しいと言うことだ」

「理解したわ。それに、『特別依頼』になるほど危険度が高いと言うこともね」


 ネデルに潜入して、敵対する勢力が守っている城塞の周辺を調査しろと言われているのと同様だ。とはいえ、彼女にとっては良くある潜入調査の類であるので問題ない。


「これが手付金だ」

「わかった」


 人狼が金袋を受け取り、それなりの金額を受け取る。金貨で三十枚ほどはあるだろう。成功すれば残り半分といったところだろうか。依頼としては破格だが、命懸けであるとするなら随分と安い。成功報酬の残り半分を加えても尚である。


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