第719話-1 彼女はラ・クロスで基礎を確認する

「で、夕飯食べに来たわけではないのよね」

「も、勿論ですぅ!!」

「「「ですぅ!!!」」」


 胡乱げな視線を彼女は送る。


 夕食を集りに来たのかとおもったのだが、意外と真剣な顔で相談に来たクリノリ以下、木組・クラン寮生たちである。


 散々日中話し合って、どうやら彼女達との力の差を全員が理解し納得したということらしい。確かに、あの即席の土杭の上で、軽業師のように体を左右に回転させ、あるいは前宙しながらクウォータースタッフを振り回し、その動きを一時間以上続ける荒行(賢者学院基準)を見て、素直に教えを乞うべきだという意見で一致したのだという。


「でも、晩飯も食べたいとぉ」

「ですわぁ」


 伯姪の「ま、いいじゃない」という一言で、クリノリ以下十一名の夕食が追加で用意されることになる。魔導具の調理具なので、調理も素早くできるということもあるので、然程問題にならない。





 食事が終わり、明日から何をどうすればよいのかという話になる。彼女は、昼間に考えた「予選でそれぞれ攻守を一度づつ務める」という提案を行うことにした。


「あー リリアルが攻めた方がいいんじゃないか」

「それだと、攻め方を二度見せることになるでしょう。あまり良くないわね」

「そうそう。準決勝ならともかく、予選で二回とも攻め方を見せるのはちょっとどうかと思うわ」


 二つのリーグのでそれぞれの一位と二位が準決勝で戦う事になる。つまり、可能性としては決勝で予選と同じ組み合わせの試合が行われる可能性があるのだ。


「その時に、攻守を揃えていない方が有利だと思うわ」

「それはそうだな。よし、俺達も攻守それぞれで経験をさせてもらった方が来年につながるだろうし、それで頼む」

「来年の話も大事だけれど、今年勝つことが最も大切な事でしょう」

「必ず勝つと書いて必勝ぅ!」

「ですわぁ」


 負けず嫌いの彼女にとって、あらゆる手段を用いて勝利に結び付けようとするのは当然のことなのだ。


「基本的な魔力の操作から見直していきましょう」

「「「……ぉぉおおぅぅ……」」」


 基本はシンドイ、だが一番重要なのだから、避けては通れない。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 飲み物が振舞われ、食堂でミーティングが始まる。朝の時点で彼我の差は理解できている。あとは、その差をどのように埋めていくかということなのだが……


「差は埋められないわね」

「ですよねぇ」

「ですわぁ」

「じゃあどうすんだよぉ!!」


 真似して身につけるには時間が不足している。故に、出来ることは魔力操作の精度を上げ、身体強化の継続時間を上げることに集中する。加えて、リリアルが何を行うかを周知させ、何が起こるかを想定して試合に臨んでもらうという座学が必要になる。


 これは、身体強化の先に何を身につけるべきかを、深く理解する意味もあるので、『ラ・クロス』の試合だけの問題ではない。


「そんなことまで……」

「問題ないわ。どの道、あなた達全員が理解し身につけたとしても、王国に良からぬ影響を与える者たちには加わることもないでしょう。それに……」


 何をしているかを理解したとしても、それを上回るような組織が賢者学院に生まれるとは到底思えない。四つの派閥はそれぞれ国内の地域の利益を代弁しており、強く結びついている。王国に何かしら企てるとしても、その中の水派か風派か、あるいは火派が神国・王宮あるいはネデルに多少そそのかされて協力する程度でしかない。対した影響は恐らくない。


 その辺りは、今回の訪問で推測できたのである。


「魔力量の差が戦力の決定的な差ではないと言うことを教えてあげなきゃね」

「教えてもらおうじゃねぇか。なあ」

「「「おうぅ!!!」」」


 魔力量の最も少ない派閥である『木組』にとっては、伯姪の言葉はとても魅力的に感じるのか、声が大きくなる。


「とはいえ、今朝の状況では……」

「それは言わないであげてくだしゃぁ」

「ですわぁ」

「「「……」」」


 あっという間に魔力切れで、ドボンドボンと海に落ちていった記憶も新しいままである。

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