第710話-2 彼女は魔術の『種』を考える
軽く朝食を済ませ、人狼以外は海岸に出る。ルミリも金蛙という『水』の大精霊の加護を受けている。故に、灰目藍髪の立居振舞は参考になるだろう。
彼女は最初に、『土』の精霊魔術と似たことを『水』の精霊魔術として再現できるのではないかと皆に伝える。
「ええぇぇ」
「ですわぁ」
一部の観客を無視し、彼女は『土壁』を形成する。
「土の精霊ノームよ我が働きかけに応え、我の欲する土の壁で我を護り賜え……『
砂浜が横一線に20mほどの長さで盛上り、高さ4mほどの『砂壁』となる。本来は、この後、『
「これを『水』で行うのでしょうか」
「いいえ。これをマリーヌに見せ、『水』で壁を再現するように願いなさい」
BURURUNN!! となぜか後脚を海獣のように鰭に変え、ひょこひょこと近寄るマリーヌ。海への警戒だろうか。
「では、詠唱しますよ。お願いしますね」
灰目藍髪は、ゆっくりとたどたどしさをもちつつも、慣れない詠唱を始める。
「水の精霊にして我に加護を与えしマリーヌよ、我が働きかけに応え、我の欲する『水』の壁で我を護り賜え……『
ザザザと音がすると、地面から幅5mほどの水の壁が立ち上がるのだが、2m程の高さで静止し、やがて消えていく。
「魔力不足?」
『水魔馬の独自の魔力だと、維持するのが難しいんだろうぜ』
伯姪の問い、そして『魔剣』がそれに対して内心、彼女へと答える。少々考えた後、詠唱の変更を提案する。
「水壁ではなく、水煙の壁に変えましょう」
「……承知しました」
水そのものを壁として形成するのではなく、濃い霧状の水煙の壁として形成することで、必要とする水の量を抑え、魔力量の消費を相対的に減らせるのではないかと彼女が思案したのである。
「さあ、もう一度」
灰目藍髪は深く頷き、そしてゆっくりと新しい詠唱を始める。
「水の精霊にして我に加護を与えしマリーヌよ、我が働きかけに応え、我の欲する『水幕』の壁で我を護り賜え……『
地面から立ち上る水煙の壁。それは厚み1mほどであり、高さは彼女の土壁と同じく4m程までに立ち上り、やがて水平になると灰目藍髪の頭上まで覆う幕となる。
「実験しましょう」
「え」
彼女は水幕の向こう側へと移動し、距離を取る。凡そ30m。
「雷の精霊タラニスよ我が働きかけに応え、我の欲する雷の姿に変えよ……『
『大丈夫なのかよ』
小火球ほどの大きさでありながら、聖なる炎と雷の性質を兼ね備えた『雷火球』を放つ魔術。魔力の消費は『大魔炎』を上回るのだが、『雷』の精霊の加護のある彼女であれば、小火球と変わらぬ魔力量で放つことができる。威力は……当然、大魔炎を上回るのだが。
DONNGAGAGAGAAAA!!!
『水幕』に命中するこぶし大の雷球。雷鳴に似た轟音が周囲に鳴り響く。
一瞬にして爆発し、水幕が消し飛ばされるが。
「マリ―ヌ!! 今一度力を!!『
省略された詠唱、グンと魔力が引き出されるも、一瞬で水煙の幕は再現された。
「やるわね」
伯姪は感嘆し、茶目栗毛も頷く。見学女子二人は、まるでサーカスの出し物でも見たかのように拍手喝采をしている。
「終わりにしましょう」
「……はい……」
必殺の一撃などありはしない。互いに出方を確認し、そして小技から牽制から入り、そして時間をかけて相手を崩して大技を仕掛けることになるだろう。では、どうするか。崩されなければ良い。
魔術の再展開にはそれなりに時間が掛かる。触媒になる物品を取り出し、それなりに詠唱し展開する。数秒あるいは数十秒の時間が発生する。マスケット銃の再装填に似ているかもしれない。
その間に接近し、詠唱が終わる前に「飛燕」を撃ち込み勝負を決める。高威力の魔術を展開する為には、相応の溜めが必要となる。つまり、その為には『水幕』で何度か小技を完封し、相手がより強力な魔術の行使に移行させる必要がある。
「ねぇ」
「何かしら」
「あの雷球、危険じゃなかったの?」
自分の魔力で展開した『水幕』であれば難しかったかもしれない。しかしながら、海浜で水の精霊の展開する『水幕』がそう簡単に破壊されるとは思えなかった。というのが表向きの理由。
「かっこよかったですぅ!!」
「攻撃する方も、護る方も両方ですわぁ」
つまりそういうことだ。
水魔馬は彼女の『雷火球』に刺激を受けたのか、自身の攻撃用の魔術を披露した。
『
魔刃を水で形成する、水魔馬の用いる『飛燕』である。これは、マリーヌが自分の判断で勝手に用いるつもりのようだ。つまり、加護を与えた者を護るために用いるということらしい。
さらに、『魔力壁』に近い精霊魔術を用いることも判明した。彼女が水魔刃を魔力壁で弾いたことに対抗したもので、『
「お任せで勝てそうじゃない」
「……いいえ。決着は自分の腕で成し遂げたいです」
灰目藍髪に相応の戦う術を持たし得たという事で、彼女は安心して昼食の準備へと向かうのである。腹が減っては何とやらである。
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