第685話-2 彼女は狩人に話しかけられる
「さっきの話、どう思う?」
「さあ。でも、わざわざ話しかけてきたのは正直怪しいと思うわ」
「どういうことですの?」
赤毛のルミリが彼女に疑問を呈す。
「もし、何か問題があるのであれば、ドゥンの街で、もう少し教会や街の衛兵などから声がかかると思うの」
「確かに。噂は多少ありましたけど、特に何も言われませんでしたもんねぇ」
馭者台の碧目金髪が振り返りつつ同意する。
「ですが、何か知っているのであれば、もう少し細かな話もあるのではありませんか」
「そうね。確信がないのか、事情があるのか、わざわざ足を止めさせたにしては微妙な反応だったかもね」
とはいえ、噂は単なる噂以上の問題があることは、『猫』からの報告で理解している。狩人は襲われることを知っているのだろう。
『主』
先行する『猫』が戻って来る。
「何かあったのかしら」
『先ほどの狩人、かなりの魔力持ちでしたがお気づきでしたか』
『猫』曰く、魔力持ちで尚且つ何らかの精霊の加護持ちであるという。
「精霊術師ということかしらね」
『正確なことは分かりませんが、そうであってもおかしくはないと思われます』
旅人失踪の件に関わりがあるのか。例えば、良くないものを使役する精霊術師の仮の姿が『狩人』であるとか。
『とはいえ、お前たちがそうそう後れを取るもんじゃねぇだろ。魔力走査していれば、接近には気が付ける。あっちが魔力隠蔽してなきゃだけどな』
『魔剣』は考えすぎるなと言いたのだろう。
野営地は林間のやや開けた原っぱに決めた。昼前に出たので、ドゥンとヨルヴィクの丁度中間になる。野営の形跡も残る場所であり、周囲を確認してみてもおかしな遺物・遺品の類は残っていない。
『歪人』は魔力を持っていない。夜間視も特に能力を有していないだろう。暗がりに慣れている、あるいは焚火などで襲う側は目標の居場所がわかりやすいということもある。
馬車を街道に向け、水魔馬はその傍に放ち、焚火を囲んで軽い夕食の準備をする。木立に阻まれ夕闇は思っていたより早い。森に囲まれた野営地が暗くなるのは思っているよりも早いのだ。
スープとパンの簡単な夕食を済ませると、茶目栗毛に表向き見張を任せ、五人は馬車へと引き上げる。とはいえ、馬車の中で襲撃を待つのだが。
「どきどきしますわぁ」
「……暗いのやばいよねぇ」
魔力の無い相手に夜間襲撃されるというケースはあまり無い。帝国遠征の際に、野営地で野盗と遭遇したくらいか。それでも、魔力持皆無ということはなかった。
「それで、あなたはこれをつかいなさい」
「……」
彼女は、魔法袋に死蔵していた「ホースマンズ・フレイル」を赤毛のルミリに渡す。
「あの」
「これは、振り回して叩きつけるだけの武器で、致命傷にはならないと思うのだけれど、小鬼に接近された場合、剣で致命傷を与えるよりも、一先ず打ち払う事を優先してほしいの」
その昔、リリアルの薬師組が銃兵となる以前、魔力の少ない女子の護身装備としてフレイルを用意したことが有る。その時の残りだ。
「これはどうやって使えば……」
「あのね、おりゃ! って頭めがけて叩きつける感じだよ。こぅ……おりゃ!!ってね」
碧目金髪、適当である。とはいえ、脱穀竿が元であるから、相手に向けて振り回すことが扱い方になるのだが。
「ちょっと、振ってみて。あ、馬車の外でね。見てあげるわ」
「よ、よろしくおねがいしますわぁ」
伯姪が確認しながら、声をかける。座って、膝立でと姿勢を変えて振る練習をする。多少身体強化したとしても、いや、技術はなく身体強化だけを上手に生かすのであれば、フレイルは悪い手段ではない。薙ぎ払うように振り回すことで、複数に集られそうな場合、相手から距離をとって殴りつけることができるだろう。片手剣や短剣より、効果はあるだろう。
自分の身を護る時間を稼ぐことができれば、彼女達によって倒す事ができるだろう。
「わたしは……槍銃でぶんなぐってやりますよぉ」
「あとは、いつもの調子でね。それと、マリーヌにも指示をしてね」
灰目藍髪は「勿論です」と答える。
こうして、夜更けになる頃、野営地の周りに何かが集まるまで、じっと馬車の中で息を殺し待機する彼女なのである。
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