第678話-2 彼女は『貴種』の強さを知る

 二体は代わる代わる彼らの『女王』について話し始める。


 元は、とある時代の聖王国の王女であり、女王であったのだと。


『……それ、一人しかいねぇだろ』


『魔剣』が突っ込むまでもなく、一人しかいない。『女王シビル』。「聖らい王」の姉であり、弟とその息子の死後、女王となったが王配を得てその男が聖国王を名乗った。


 兄王の時代、サラセンとの共存を模索する政策をとっていたのだが、シビルの夫となった聖国王は修道騎士団らに担ぎ上げられ、戦争を始める。が、会戦で大敗し、聖王国は騎士と軍の大半を失ってしまった。

 

 残されたのは、聖王都を護る城門の守備兵だけであり、武器も鎧も事欠く状況であった。砂漠に鎖帷子を装備した騎兵で戦争に向かうなど、狂気の沙汰であり、神の加護以前の問題だ。神様だって困ってしまうだろう。


「それで」

「やはり話が長いですね」

『すぐ、すぐですからぁ!!』


 女王シビルは聖王都に伝わる噂の一つで、「力を与える悪魔」の封印された祠を訪れその悪魔と契約を交わした。


 悪魔と思われていた存在が『真祖』と呼ばれる原初の吸血鬼であり、ジゼルは聖王国の女王という身分もあり『妻』となり『貴種』としての力を与えられた。


 シビルの『魅了』の力により大いに士気を上げた聖王都の民兵団は、近隣から入場した『ディブラン男爵』を指揮官とし、サラセンの大軍を幾度も跳ね返した。『ディブラン男爵』は実在したが、この人物は『真祖』が変化した偽の男爵であった。


 サラセンの将軍に聖王都を譲ることを約束し、代わりに御神子教徒を安全に近隣の街まで退去させることを決めた。とはいえ、超人的な力で反撃する聖王都の民兵団に何か異様なものを感じて、サラセン軍が怯えたということもあったという。


 その後、シビルと偽男爵は表向き『アッコ』へと逃れたことになっているのだが、更なる聖征軍の派遣の情報を得て、戦場となるであろう聖王都へと舞い戻り潜伏した。戦場でならば魔力持ちの魂が容易に手にはいるからである。





 聖王国の裏に、女王が吸血鬼化していた背景があったとは。『大塔』の修道騎士団長達が吸血鬼化していた理由も察することができた。


「もしかして、真祖と呼ばれる悪魔は、死霊術も使うのかしら」

『『……何故それを……』』


 吸血鬼化していた歴代総長は8代目聖アマンド、14代目ヴィル・シャトル、21代目ヴィル・ボジュで、聖アマンドはシビルが吸血鬼化する前の行方不明だが、聖王都攻略にサラセンの軍が連れて来ていたのであろう。


 自分たちの捕えた修道騎士団総長が痛ましい姿で戦の直前に送り返されてくる。心が折れるとでも思ったのだろう。しかしながら、シビルの力で吸血鬼化し、恐らくは強力な騎士として復活したのだろう。優秀な前線指揮官として、偽男爵と並んで武勇を発揮したのだと思われる。


 聖王国に潜んでいる間、数々のサラセンとの戦闘で、死にかけた総長を救うか、あるいは死体を掠め取り、命があれば吸血鬼化し、死体であればその魂を結び付け、ワイトなりスペクターとして使役したのだと考えられる。



 


 その後、真祖と貴種は異教徒との戦いの前線に姿を現し、それぞれの地で騎士や傭兵として戦いに参加し続けた。


 北聖征に参加するため、帝国から駐屯騎士団領に向かう一団にシビルは加わり、そこでまずウリッツと出会い『隷属種』とした。


 やがてその力を背景に、駐屯騎士団内で頭角を現す傍ら、ジゼルは帝国商人として騎士団に出入りをし、情報を得て時折異教徒との戦いに『傭兵』として参加した。『戦う商人団』という名の女団長であった。


 やがて、弟の活躍で幹部となった兄の『コンラート』も吸血鬼となり、二人は駐屯騎士団内でジゼルと共に成り上がっていったのである。




 ジゼルの休眠期は『貴種』として二百年ほどあると見られており、ウリッツが戦死したふりをしたのち、帝国東部の古城で休眠状態となっている。


 隷属種から従属種になったウリッツは、百年の活動期の後百年の休眠に入り、五十年ほど前に目覚めている。その間、兄のコンラートが傭兵団となり、従属種にまで力を蓄えた。コンラートの休眠期は数年後に迫っているようで、その間に、連合王国で戦争に参加し力を貯めて休眠しようと画策している。


 主の目覚めはあと五十年から八十年後とみられており、その間は、第二の女主人である、『真祖』の第二夫人の指揮下にある。


「やっと出てきたわね。その貴種の女吸血鬼の居場所を教えなさい」

「ヴィ、魔力を押さえてください。か弱いんですから吸血鬼は」


 ひいぃぃと怯えを隠そうともしない吸血鬼二体に、オリヴィは顔を近づけ威嚇するかのように振舞う。胸倉を片手でつかみ、吸血鬼二体を左右の腕で吊り上げる。


『まじか』

「身体強化でしょ? 私にも……魔力壁の台の上にのれば足ぐらいつかなくなるわよ」


 彼女はオリヴィより背が低いので、足の無いウリッツならともかく、優男コンラートを持ち上げるには腕力はあっても高さが足りない。


「そ・れ・で、その女主人はどこに潜んでいるのかよ」


 まあまあと押さえつつ、ビルが言葉を継ぐ。


「質問を変えましょう。あなた達はどうやって指示を受けているのですか?」


 真祖である親の親は五十年ほど前に休眠期に入り、恐らくは三百年ほど寝ているのだという。その間は、『第二夫人』が真祖と女王の配下の吸血鬼を代理で使役しているそうだ。


 女王と第二夫人が五十年後にともに起きている状況が発生するのであれば、何か揉め事が起こりそうな予感がしているらしい。が、そんなことは聞いていない。


『お、俺達は直接御目もじできないんだ』

『あ、ああ。本当だ。指示は、商人同盟ギルド経由で書面で傭兵団に送られてくる。依頼の態でだ。こ、今回もその一環なんだ。嘘じゃねぇ!!』


 命の危険に敏感な二人は、この部屋にその手紙が保管されているとか、フラム城のどこそこに写しがある等と異口同音に話し始めた。余程死にたくないようである。


『ね、ネデルのどこかにいるはずなんだぁ!!』

「そんな事は分かって……でも、手紙の日付で……」

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