第677話-1 彼女は吸血鬼と手下を叩きのめす
大扉の前にオリヴィとビル。彼女は二階への階段から降りた少し先、奥の団長ら幹部室の手前に位置している。そして、連れてこられた伯姪、茶目栗毛、薬師娘二人は大広間の右端中央あたりに纏まっている。
『主、奥に進みましょうか』
オリヴィとビルが出口を塞いでいるのは、傭兵達を逃がしたくないからだろう。吸血鬼を追撃する為には、この大広間を埋めている傭兵を倒さなければならない。
『おい、あれやれよ、あれ』
「……そうね、それしかないわね」
兵士を一撃で昏倒させる魔術を使う。ビルの炎の魔術では建物自体が燃え上がってしまう。オリヴィの土魔術や風の魔術では手間もかかるし意識を狩るのは難しい。故に……
「雷の精霊タラニスよ我が働きかけに応え、我の欲する雷の姿に変えよ……『
『雷燕』の乱舞を起す魔術。『雷』の精霊の加護が必要であり、魔力の消費が桁違いに多くなるので、余り用いる者はいない。
が、彼女の無駄魔力で、会場を埋め尽くす傭兵達がバタバタと倒れていく。
『無駄に魔力があってよかったよな』
「誰が無駄魔力よ」
目の前で、青白い炎と閃光がバチバチと瞬き、瞼を閉じてもその輝きが目に焼き付いていく。
「あああ、目がぁ!! 目がああぁぁぁぁ!!!!」
「ばるすだぁ」
「……ばるすではなくって雷刃剣でしょう」
古の破壊呪文とされる『バルス』……それは物語の中での話。
そして、肉の焦げた臭い、髪が燃える臭い、嘔吐に失禁、阿鼻叫喚の巷であるが、魔力持ちを魔力走査で避けた結果、同士討ちはほぼ避けられた。
「行きましょう」
「……ビルは、雷当たっても大丈夫だったんじゃない?」
「服が燃えたら嫌ですから」
オリヴィ主従は、倒れた傭兵を踏みつけながら、奥の扉へと駈出していく。
「随分と斬新な姿になったわね」
「ええ。リンデで最先端らしいわよ」
「それは良かったわね」
切裂かれたドレスを身に纏う彼女の姿を見て、軽口を叩く伯姪。オリヴィを追うか、この傭兵達を片付けるかそれが問題だ。
「ブスッと逝っときましょうかぁ」
槍銃の穂先で倒れている傭兵の首元をズブリと突き刺す碧目金髪。さされた足元の傭兵が、ビクンビクンしているのは、恐らく死んでおらず麻痺か仮死状態であったからだろう。
「魔法袋に入れてしまえば、死体と直ぐに判断できるでしょう?」
「「「ええぇぇ」」」
伯姪の言う通りなのだが……余り嬉しくない。とはいえ、吸血鬼の死体は回収しておいた方が良いだろうから、物はついでである。
彼女が次々に手を触れ、収納できなかった傭兵達に次々と止めを刺していく残りのメンバー。
「ルミリッチをつれてこなくってよかったとねぇ」
「一人で夜トイレに行けなくなったら困りますからね」
どうやら、ルミリは怖がりさんらしい。確かに、この死体が散乱している景色をみれば、そうなるかもしれない。
一通り死体を回収した彼女は、ロッドの二人の安否を確認する。
「大丈夫かしら二人とも」
「え、ええええええ……」
「だ、だ、だ、大丈夫、だいじょうぶぅぅぅ」
大丈夫ではないようだ。薬師娘を呼び、二人とともに行動することを依頼する。
「そう言えば、城塞のほうはどうなっているのかしら」
彼女が気にしていると、大扉からボロボロの若い男が入って来る。一瞬、喰死鬼かと思ったのだが、生きている男性のようだ。
彼女はポーション(沢山ある在庫)を差し出し、これを飲むように勧める。差し出されたポーションをじっと見た後、男性は意を決したかのように飲み始める。顔色も多少良くなり、細かい擦り傷が消える。体を洗えば、まずまずの状態になったように思える。
「べ、ベン!!」
「ポーラアァァ!!!」
どうやら、ロッドの住民の片割れであったようだ。抱き合い大声で泣く二人。そして、今一人の女性が男性に何かを聞くと、大扉に向けて走り出した。
「ちょっと、待ちなさい!!」
「止めないで!! あっちの地下に、知り合いが倒れているって言われたのぉ!!」
知り合いではないだろう。事情を察した彼女は、伯姪と茶目栗毛に様子を見てもらうように頼む。どうやら、男性がここに来たのは、地下の監房をオリヴィとビルが解放したからのようなのだ。様子を見たついでに、解錠し自力で逃げられるものは逃げるようにと言ったらしい。
残っているのは、衰弱している人たちで、それは吸血鬼を倒してから向かうと言うことにしたようだ。
「お願いね」
「ポーション配ったらすぐ戻って来るわ。その間に、ここの収拾をつけておいて欲しいわ」
吸血鬼と傭兵の死体回収が彼女の仕事となったのである。
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