第674話-2 彼女は一先ず商業ギルドへ向かう

 ノルヴィクはウェン川の蛇行点を利用した都市であり、川の流れと城壁の組合せで外郭防御を担っている。街の中を流れる川に掛かる幾つかの石造の橋も、防御拠点として円塔・城門楼を備えた堅牢な構築物となっている。


 ノルヴィク城は、街の人々を侵略者から守る施設であった。ウェンサム川も同様で、都市の 3 つの側面に自然な防御線を形成しています。これらの 2 つの重要な防御線に加えて、二百年前に建設された高さ 6mの壁の建設によって都市はさらに保護された。


 壁は 十の城門で構成され、その間に一連の塔が建設された。


「そのノルヴィク城が監房として利用されて、傭兵団がいるというわけですか」

「そのようね」


 宿の従業員にそれとなく「傭兵団」の話を聞いたのだが、昼夜問わず街中を巡回しているようで、安心を感じる者が少数、不安を感じる者が多数であるという。やはり、派手な衣装を着た帝国出身者の多い傭兵は、言葉も余り通じないこともあり怖いのだそうだ。


 無茶や乱暴狼藉は今のところ見られないが、「気が付いたら後ろにいた」「しばらく追いかけられて怖い思いをした」といった話が多いのだそうだ。


「一人では出歩かない方が良いですよと言われたのよね」

「まあ、ほら、最初三人で出かけて二対一に別れればいいんじゃないですかぁ」


 ということで、伯姪と茶目栗毛、彼女の三人で宿を出て、途中で分かれることにする。宿を出る時点では注意されたとおりに振舞ったということになる。





 ノルヴィクは百年戦争前くらいから発展した場所であり、川を利用した水運と周辺から集めた羊毛を加工し、川を使って外港に相当する『大ヤマス』へと輸送する羊毛貿易の主要な場所となった。この市場の成長は 川に支えられ、ノルド公領の羊毛の強力な戦略的輸出ルートを提供している。


 また、、街を取り囲む土地は非常に肥沃で、都市がさらに成長し、繁栄するのに役立つ食料生産を担っている。


 そして、ノルヴィクの人口はネデルからやってきた移民により増加。新参者は街に大きな影響を与え、かつて街の富と繁栄を支配していた繊維貿易の復活に貢献した。


 早くから開けたこの地方は、王家にとっても重要な拠点であると認識されていた。


 ノルヴィクの街と、その中央の小高い丘の上に立つ城塞も、王の権力と軍事力の畏敬の念を起こさせるシンボルとして建てらた。城塞は王宮として建築され広大な敷地を有するものである。 城塞の主塔は高さ21m、幅28m、壁の厚さは約3m出入口は 一階東側にあり、『ビゴッド城門塔』によって保護されている。


 王宮であるゆえに、城塞自体はさほど強力な防御施設を有していない。都市全体を防御施設として建設された『要塞都市』という性格が、領都ノルヴィクにはある。


 二百年前には市壁と百年前に市議会が建設され、主塔の軍事・行政上の重要性が低下し監獄として転用された。


「どのくらいいるのかしらね敵は」

「さあ。中隊規模なのだから、兵士が百人、吸血鬼が貴種並が三体、その下に数人の劣後種といったところでしょうね」

「はぁ。百人ですかぁ」


 人間でも吸血鬼でも、首を斬り落とせば死ぬ。力も精々、醜鬼程度であるから、裁くのは難しくない。


「折角だから、スティッレットを使っていきましょうか」

「まあね。あとは魔装拳銃くらい? 剣は目立つものね、帯剣はできるかぎり止めておこうかしら」

「魔装扇もつかえそうですわぁ」

 

 巡礼が扇を使うのは少々場違いな感じがするが、メイス代わりに魔力を纏って戦うには良いかもしれない。魔装槍銃とか、絶対無理だから。





 宿で待機する薬師娘と赤毛のルミリ。主寝室に滞在してもらう。どこかでこの宿自体はオリヴィとビルが監視してくれている。『猫』をどこに残すかだが、彼女を追走するようにしておく。万全の状態の『貴種』とその従者である高位の『従属種』と三対一で対峙するのは自信がない。


「ではまた後で」

「おいしい朝食が食べたいですぅ」

「宿で用意してもらっておきますわぁ」


 湯は水の加護持ちに満たしてもらったバスタブに、ビルが炎の精霊魔術で加温してもらえば……多分大丈夫。


 明日の朝までに決着をつけたいと彼女は考えている。


『ラウス卿から伝言です。貴種は城に入ったと』


『猫』の言葉を聞き、彼女はリリアルメンバーに伝える。


「長い夜になるかも知れないので、明日はゆっくり過ごしましょう。怪我のないようにね」

「「「はい」」」


 彼女と伯姪、茶目栗毛は宿を後にする。


 大通りを歩き、二人は別れて道具屋へと入っていく。彼女はその先にある小径に入ったところにあるという薬師の店へと向かうことにした。





 一人になった彼女の背後に、距離を詰めた三人の帝国傭兵がいることに彼女は気が付いている。


『主、距離を詰めてきました』


 彼女は黙って前を向いたまま小さく頷き、予定通りに小径へと入る。ざざざと地面をける音がし、彼女の背後から男が声をかける。


「巡礼のお嬢さん、どちらまで?」


 如何にも優男でありながら、目はその下心を映しているような暗い目をしている男が、優し気に声をかけてきた。振り向いた彼女を見て、男たちが硬直する。


「こりゃ、貴族様じゃねぇのか」

「かもしれねぇ。まるで、白雪姫じゃねぇか」

「だな」


『白雪姫』は、かなり幼い少女であった気がする。彼女は自分の年齢が幾つに見えているのだろうかと少々腹立たしく感じていた。

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