第667話-1 彼女は少女に魔装勒を渡す
そこには、黄金の蛙がいた。赤毛のルミリに『水精霊の加護』を与え、『巫女』としたフロッグ・シーじみた存在。蛙の王様ではない。
『なんでよんでくれないのよぉ』
蛙に似た何かを傍に置いておくほど、ルミリは非常識ではない。そもそも、貴族の小間使いとして仕えるのであるから、怪しい妖精だか精霊を見えるようにしておくことなどできない。
結果としてこの怪しい蛙である『フローチェ』は姿を見せないことを条件に同行を許されていた。決して忘れていたわけではない。
船べりでどたどたと地団駄を踏む蛙がいる。それが残念精霊のフローチェである。故郷に帰る為に同行しているのだが、おそらく、それとは反対方向に移動している。
帝国回帰!!
『あれ、なんかいまいそがしぃのかしら』
周りの雰囲気に気が付いて慌ててルミリに話しかける。
「いま、けるぴーに追いかけられているんですの」
『狂乱水魔でしょぉ。話聞かないのよね』
狂乱しているのですかそうですか。あまり役に立たない情報をもらい、彼女と伯姪は討伐の体勢に入ろうと考える。
とはいえ、草の魔物であれば燃やす事が最適解なのだが、水草を燃やすのは至難の業だ。乾燥させてからならばともかく、今この状態で燃やすことも難しい。
更に加えるなら、水草と『藻』なのである。
「斬っても斬っても繋がる未来しか見えないわね」
「藻が絡み合うと、大変ですよぉ」
「魔導外輪も絡め捕られそうね」
「整備が大変です」
一先ず、藻の塊の接近を止める為彼女は魔導船を魔力壁で覆う。が、その周りを藻が取り囲み船足が止まる。
「ビル」
「はい」
水から出ている部分を、炎の魔術で焼き払うビル。が、その隙間を埋めるように新しい水草が生い茂り、あっという間にそれを埋めてしまう。幸い、水中に引きずり込まれる迄行かないのは……
「これ、祝福の効果かしら」
「ええ、ブレリア様のおかげね」
ブレリアとは、リリアル生に水の精霊の「祝福」をくれた水の大精霊であり、リリアル領の守護聖人に……おそらくなる泉の女神様である。水の元精霊であるケルピーも、祝福持ちを取りこむのは抵抗があるのか、あるいは、狂気の中でそれを欲したのかのどちらかであろう。
「祝福に寄って来たんですよぉ」
「無駄にモテていますね」
祝福持ちを狂気の水精霊が追いかけて来るという構図であろうか。
「きりがありません」
「続けなさい。あなたなら問題ないでしょう」
「承知しましたヴィ」
泣き言を言っても、魔力が限りなく多い炎の大精霊の化身であるビルは、幾らでも焼き払う事ができる。これをやめたのであれば、留められるどころか引き込まれる可能性もあるからだ。
拮抗した状態を維持できる時間は限られている。
「それで、どうする?」
オリヴィは風の魔術で空中に退避することができる。リリアル生も彼女と伯姪、茶目栗毛は魔力壁で空中を走ることはできるだろう。
他の三人は、彼女の造った魔力壁を足場に駆け抜ければ岸までは辿りつけるだろう。しかし、魔導船を手放さねばならなくなれば、この場所から先の旅に問題が生まれる。特に、依頼の達成、賢者学院のある沖ノ島迄の移動手段を改めて手配しなければならなくなる。
できる限り魔導船を失いたくない。
オリヴィは少し考えたのち、彼女達に提案をした。
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