第665話-2 彼女は自由通行許可証を得る
オリヴィから出発を明後日と言われた彼女は、一先ず親善大使である王弟殿下の元に、『賢者学院』への視察・交流に向かう事前の挨拶に赴くことにした。
「今回の目的ですから。私たちはその間、女王陛下との親睦を深めておくことにします。リンデの商人たちとも交流を深め、王国との貿易で利のある関係を結ぼうと思います」
「それは素晴らしいです殿下。大公領となる旧ランドルは連合王国との貿易のつながりの深い地域です。戦争の影響もあり、今は疎遠となっておりますが、その関係の修復が望まれるところですから」
王都総督として相応に商人・都市貴族との交流を学んだ王弟殿下であるから、その辺り不安は以前ほどない。連合王国に対し、王弟殿下が『太陽』となり、王太子殿下が『北風』となるのが恐らくは望ましい。主流は王太子の王国中心主義だが、連合王国との交流を断ち切るのは宜しくない。王弟殿下の元に親連合王国・原神子派が集まる方が王国内の利害調整は行いやすいだろう。少数派にも権利を認める必要はあるし、その旗頭を明確にしておくことは悪くない。
利害対立からいきなり闘争に入るより、王弟と王太子がそれぞれの利害を代表し、国王がその調整をするといった辺りが、国内を纏めるには良いだろう。中には王弟を担いで反乱を起こす事を唆す者がいるかもしれないが、王弟にその野心がなければ、あまり意味がない。王弟殿下がそこそこ優秀であることは望ましい事だが、王国内において甥と叔父の力量差は明白である。叩き潰す為に敢えて纏めさせようという王宮の意図が見て取れる。
「どの程度の旅程なのだろうか」
「そうですね、片道一月弱はかかると思われます。途中、訪問した先での交流もありますから」
普通の馬車で大きめの都市を通っていくのであれば、行く先々で当地の領主や代官の館に泊まることになり、そのまま素通りというわけにもいかない。半月で済むところが一月はかかるだろう。親善副使なので仕方がない……
という建前だ。
「滞在に一月ほど。ですので、三ケ月ほどを予定しております」
「そうか。何かあれば、こちらに連絡を。では副伯、良い旅を」
「ありがとうございます殿下」
王弟殿下の行動は、どの道この館にいるサンライズ商会員とジジマッチョ軍団に見張られている。故に、リリアルが別行動したとしても問題ない。何かあれば、姉が上手くやるだろう。
王弟殿下の居室を辞去し、サンライズ商会の商館側に戻ると、姉とジジマッチョが待ち構えていた。
「出立するのか」
「明後日に、船でリンデを出ます」
「そうか。まあ心配することはないのだが、いつでも力を貸す。我ら聖騎士であるからな」
ニース騎士団は、その上位騎士を『聖エゼル』の騎士として運用している。聖エゼル海軍の拠点を有し、その海軍の現在の指揮官は提督は姉の夫である。その前は、ジジマッチョが兼務していた。
今回帯同した引退した者たちも、全員が聖騎士あるいは修道僧だという。退魔戦は得意なのだという。
「魔銀のメイスも用意してきた」
姉にちらりと目を移すと、いい笑顔でサムズアップしている。たぶん、棘大盛
仕様なのだろう。
「その時は、大いに頼らせていただきます」
「そうか。では、吉報を待つぞ!!」
ものすごい勢いで両手を掴まれ、シェイクハンドどころか、シェイクアーム
されてしまう。
「それと、マリーアのこともよろしく頼むぞ」
マリーアことメイはこの場にはいない。が、彼女と共に歩むかわいい孫姫をジジマッチョはどことなく危うげで無理をしているように思えるのだろう。祖父にとって、孫はいつまでも幼い姫のままなのかもしれない。孫ではなく、甥の娘なのだが。
「私こそ、頼りにしております」
「そうか。二人とも気を付けてな」
自分も同行したいと目に気持ちがあふれているのだが、それはそれで難しい。そもそも、ジジマッチョ軍団はリリアルの運用に合わない。隠密行動をすることなど前提にしない、正面から吶喊あるのみなのだから。
姉と親和性の高い存在であると言えるだろう。
そして、旅に必要な食料や部材を整えるため、リンデの街で買い物をし、翌日を過ごしたリリアル一行は、オリヴィと合流し出発前日、『賢者学院訪問前の壮行会』と言う態で、ささやかな宴を催した。
王弟殿下一行、リンデ在住の王国大使、ジジマッチョ軍団と姉、そして、オリヴィとビル。帝国のみならず近隣国でも有名な冒険者『灰色乙女』の登場に、王弟殿下とジジマッチョ軍団は大いに喜んだ。
王弟殿下は、その横に立つイケメン金髪のビルを見てちょっと眉を下げていた。そもそも、オリヴィは祖母と同世代の人間であり、王弟殿下の母親と近い年齢である。見た目は年齢不詳(本当に)の美女であるし、イケメン金髪は炎の精霊の化身であり、魔剣の一種なのだ。
「あのくらい見目の良い魔剣の化身なら文句なしなのよね」
『悪かったな』
『魔剣』は人化するにはまだまだ修行が足らないのである。
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