第647話-1 彼女は『ノルド公』について考える

 灰目藍髪の馬上槍試合対策も進んでいる。『闘牛の真似』を理解してから、筋肉爺たちの猛攻もいなしつつ、刺突をわざと誘う練習にも余念がない。


「またやられたな」

「いい加減になれるだろ」

「いやいや、頭に血がのぼっていると、チャンスに思わず体が動いちまう。習性とか習慣、体で覚えた者はそうそう抜けないものだ」

「「「「その通り!!!」」」」


 その後、若い娘の褒め殺し大会に進んでいくのがお約束。流石にジジマッチョには通用しないものの、他の団員達には効果がある。恐らく、突出した戦士でなければ、鍛錬の成果を逆手に取られるカウンターには早々対応できないと周知されている。


「筋肉と魔力の多いものが勝つのが馬上槍試合ではないのか。時代は変わったな」


 時代が変わっているのではなく、魔力量にも筋肉にも恵まれない騎士の戦い方を模索した結果の一つに過ぎない。


 馬上での剣による戦いも、落馬と剣を落とす以外においては、徒歩の戦いとさほど変わらない細則となる。体の小さく軽い女性が乗る分、馬の疲労は少なく強引な攻撃による体重移動で馬が疲弊することもない分、時間いっぱいまで躱して戦うという展開も十分ありだろう。





 従騎士の鎧からリリアル用の装備、筋肉爺団の装備も整えられた。周囲の諫めもあり、個人戦への参加は見送った。先代ニース辺境伯を見知る者もいないとも限らない。


「……教官……いつこちらに」

「おお、ダンボア卿。孫の嫁に頼まれてな、ちょっとしたお使いに来た」


 王弟殿下と侍従らは未だ『新王宮』に滞在中だが、天覧馬上槍試合に参加するルイダン以下近衛騎士達は『シャルト城館』に戻ってきたのだ。準備をするために。


「それにしては、その甲冑はどうされたのでしょうか」

「孫嫁に貰った」

「……然様で……」

「集団戦に出る」

「……なるほど」


 背丈は変わらずとも体の厚みは倍ほども違う。さらに、魔力量はかなりのもの。現役なら姉ほどもあったというのだから恐ろしい。


 錘代わりにメイルを着用し、騎士槍を振り回す鍛錬を行う筋肉爺隊のメンバー。五人参加なので、誰が抜けるか、熾烈な予選が行われるのも間近である。ジジマッチョの指揮の下、騎士の夢再びと盛り上がっているのだ。


「お爺様たちが優勝で良いわよね」

「でも、女王陛下の前で賞せられて問題ないのかしら」

「問題ないじゃろ」


 果たしてそうだろうか。


 筋肉爺隊にも問題はある。一つは、馬にあまり乗るのが得意ではないという点。腰に来るのだ。加えて、筋肉爺は重量もかさむ。馬が疲れるのである。


「試合時間にもよるのだけれど、決着がつくまで試合続行なら、私たちにも勝機は十分あるでしょう」


 馬の疲労で勝つという作戦も悪くはない。





 近衛騎士達は、試合用の装備を身に着け、遅れていた分の練習を開始した。ジジマッチョたち相手に。それはもう……コテンパンにやられるほどである。


「魔力の遣い方が雑ね」

「相手が悪いというのもあるでしょうね」


 長時間身体強化を行う事に慣れているリリアルと、そうではない近衛騎士。最初の数分間なら差がないが、十五分も続けると魔力切れを起こす者が出てくるのが近衛騎士。


 以前の騎士団ならその問題があったものの、ゴブリン討伐の反省を鑑み、またリリアルの魔力の用い方を参考に鍛錬方法を変えた結果、一時間程度は継続できるレベルになっているのでこの差は大きい。


「魔力がある貴族の子弟ってだけで近衛騎士にはなれるから、それはそれで伸び代がないのよね」

「鍛錬する動機がないことが問題かしらね」


 お飾り、見栄と血筋以外に誇るべきものがないと言われる近衛騎士。近衛連隊の士官となった者はその中でも優秀。国王付き、王太子付きがその次。王弟殿下や王太后付きは近衛でも腕ではなく家名で選ばれる傾向が強い。お付きの侍女の甥や弟などである。


 とはいえ、ルイダンもネデルでの経験を得て少しは変わっている。騎士学校で正式に「騎士」としても叙任された。今回帯同している四人は、「ましな方」ということで、ジジマッチョとの鍛錬にも喰らいついているのでそれは理解できる。


 気持ちだけだが。



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