第578話-2 彼女は姉と共に吸血鬼と対峙する
さて、聖アマンドに色々聞きたいことがある。いつどのようにして吸血鬼になったのか。ヌーベ公領との関係、そして、王都で何を為そうとしていたのか。『聖櫃』はどこにあるのか……その他いろいろだ。
「さて、元気になったようなので答えてもらいましょうか」
流石に『貴種』としても、そこそこのレベルに達している聖アマンド。魂をかなり消耗したであろうが、左腕を失っただけであとは回復しているように見える。
「この杖いいね。今度のノーブルのお城の謁見室にでも飾ろう!!」
姉は『権杖』を拾い上げると、有無を言わさず魔力を纏わせ、聖アマンドの頭に叩き込んだ。
GAGINN!!
『ガァァァ・……』
「こんなの痛くないよ。ね、妹ちゃん」
姉は妹を虐めたものに容赦がない。確か、あの時の男の子は、縄で縛られ王都の川に流されたと記憶している。
『き、貴様らに王都も王国も守る事は出来ぬわ』
「そら、あんたら修道騎士団をはじめとする聖騎士団でしょ? 聖王都も無謀なサラセンへの攻撃で戦力磨り潰してまともな防衛戦も出来ずに明け渡して、散々掠め取った財貨も身代金として回収されてさ。それに、仲間割れしてまともな防衛戦も展開できずに各個撃破されて徐々に防衛拠点を喪失。まあ、吸血鬼が自分のために戦争していたなら、そうなるのは当然だし。さっさと歴史の波間に消えればいいのにね」
「『……』」
姉の反論があまりにも辛辣なので、聖アマンドも彼女も沈黙する。
どうやら、聖アマンドが吸血鬼になったきっかけはそれ程奥行きのある話ではなかったようだ。ある時、聖征の最中の戦場で傷ついた際、瀕死の状態となり修道騎士団の施療院に運び込まれた。
『そ、その時治療を施した女治療師が……恐らく吸血鬼であったのだ』
瀕死の重傷から奇跡の回復を起こしたアマンドは、一隊を任されるようになる。そして、先頭に立ちサラセンの魔力持ちの戦士を狙って戦いを仕掛け、戦闘のどさくさに紛れて魂を狩り続けたのだという。
「それで? 吸血鬼の男から男の吸血鬼は作れないでしょう?」
『……何故それを……』
最初の吸血鬼が男女どちらであったかはわからないが、ドライアドとの融合ということであれば、異性である男であったろう。つまり、『真祖』は男であり、その下に女吸血鬼が複数生まれる。その下に男の吸血鬼が生まれることになる。
『……』
「だから、そこで呻いてる奴とか、おかしいじゃない?」
『まあ、修道士の間では……ほら。アレだ』
「ホモセクシャルね」
同性愛者は許されざるものだが、既に吸血鬼となった者たちからすれば、大した問題ではない。また、魅了の影響を受けたのかもしれない。
「もしかして、これってさ」
「総長が吸血鬼化したりアンデッド化したのではない」
『力のある修道騎士として成り上がった奴らは、吸血鬼化していたと考えりゃ話が早い。アンデッドなんだから、ワイトやレイスになるのも容易だろうな』
幾人かの吸血鬼が常時、修道騎士団内に存在し、その中で有望なものを吸血鬼化する。ある程度年齢が高くなければならないので、その辺りは『魅了』でも使っていたのだろう。
成功し、そのまま吸血鬼として総長を務めた後、戦場で失踪できれば吸血鬼として活動し、失敗した場合は死体を残しワイトやレイスとして保存するというやり方で勢力を残していたのだろう。
『帝国の吸血鬼とは別系統か』
「そうとは限らないわ。それに、私たちには関わりの無い範囲になるわ」
そんな話をしていると、姉の入ってきた矢狭間に新たな人影が現れる。
「殺していないわよね」
「……ええ。お久しぶりですねオリヴィ」
王国をしばらく離れていたオリヴィが戻ってきたようである。
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どうやら、オリヴィは姉と今日待ち合わせをしていたようなのだが、時間になっても現れないので気にしていると、使いの者が王太子宮にて待つと伝言を届けたのだという。
「姉さん」
「何かな妹ちゃん」
「私もギルド経由でオリヴィと連絡を取っていたのだけれど」
「そうそう。それで、こっちにも話があってさ。ネデルだと冒険者ギルドは余り動いていないから、ニース商会経由でも探して連絡していたんだよ。だから、私の所に来てくれることになったわけ」
「……でも、それならそうと……」
「だって、妹ちゃん最近忙しそうだから、余計な情報与えると、私を無視してオリヴィちゃんとだけ会うでしょ?」
姉と関わると面倒なので、その通りである。つまり、姉はそれを予見しオリヴィにかこつけてリリアルに遊びに行こうと考えていたようだ。
「最近、私も『ラ・クロス』に嵌っててさぁ」
「……参加させないわよ」
「えー お姉ちゃんズって結成したんだよぉ。監督は私☆」
どうやら、ニース商会関係者の魔力持ちを中心に強引に結成したのだという。多分、エルダーリッチ軍団が主力だと見た。
「本場の連合王国でも遠征試合とかやってみたいんだよね」
「……連れて行かないわよ。公務なんだから」
「……え?」
彼女の答えに、姉は心底意外そうに不意を突かれた顔になる。
「だから、王弟殿下の随行員として副大使として同行するんだから、物見遊山ではないのよ」
「し、知ってるよ!!」
慌てて誤魔化す姉。どうやら、ネデルや帝国の時のように彼女の行く先々に顔を出そうかと考えていたようだがそうはいかない。
「連合王国の首都に支店でも出せば問題なくなるかもしれないわ」
「いやー あそこは商業同盟ギルドが強くって、結構難しいんだよね」
オリヴィの提案を姉は即否定する。彼女が出張るのに、先回りして打診しないわけがない。
「けれど、ニースに連合王国の商会の幾つかに支店を持たせれば、交換条件でいけるんじゃないかしら」
内海の情報が手に入りにくい連合王国。特に、教皇庁と神国の動きに関して常に情報を求めている。女王の姉が生前婚姻していたのが当時王太子であった神国国王、そして、父王は教皇庁と対立していた過去がある。今でも、修道院を国内からほぼ一掃し、教皇より王の権威を上と定めた連合王国のことを
両者は良く思っていない。
姉王は御神子教徒であり、国内の原神子派に対して厳しく対応したが、今の女王はその正反対でもある。神国王女を母に持った姉王、対して今の女王の母は商人の娘の侍女上りで、尚且つ途中で婚姻無効とされた存在。どのように思われているかは想像がつく。
「それ、ちょっとアプローチしてみようかー、折角ウォレス卿と仲良しになったんだし」
と姉は不穏当なことを言う。
「だって、お姉ちゃんズの指導者、ウォレス卿だから。私たち仲良しだよ」
にひひとばかりに笑う姉であった。
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