第562話-2 彼女はリリアル街塞の確認に向かう
そんなことを話していると、四人の年若い冒険者が受付で話をする彼女と受付嬢に話しかけてきた。
「もしかして、ワスティンの森の依頼がはじまるのかよ!」
「……ええ。今正式に依頼していただいているところです」
「なんだよ、早く依頼を張り出してくれよ。待ってたんだぜ俺達。なぁ!!」
元気が良いのか無礼なだけなのか微妙なリーダーらしき少年が話を続ける。
「これで、俺達もリリアルと縁ができるっつーことだ」
「……それは……」
「リリアル生って俺達と同じ孤児出身だよな。なら、俺達だって活躍すれば入れてもらえるんじゃねぇの?」
確かにリリアルは『王都』の孤児院にいる「潜在的に魔力を持つ者」を彼女自ら『魔剣』と共に選抜し、本人の同意があれば加入させている。その上で、孤児の魔力持ち男児は騎士や貴族が養子として貰い受ける事が多く、大多数は女児が残る事になる。回復魔術が使える資質を教会が判断すれば、修道女見習として教会に籍を移すこともあるが、大半は宝の持ち腐れ状態であった。
それを、リリアルでは「薬師」として育成する前提で魔力持ちの女児を中心に預かり、その中で本人の希望や資質があれば「冒険者」「騎士」として魔力を用いた戦い方なども教育しているし、官吏や侍女となる道も考えられている。
それはあくまでも、「魔力ありき」の話であり、冒険者として腕前を上げたなら、近衛連隊でも騎士団でも受験して見習なり従騎士になれば良い事なのである。彼女と同時期に騎士学校に入校していたものにもそうした経歴の者たちがいた。
少なくとも、冒険者からリリアルに入るとするなら、冒険者としての経歴が申し分ない引退間際のベテランである必要がある。『戦士』のように。
「それはないわね」
「……なんでだよ」
「あんたたち、王都の孤児院出身なの?」
「王都じゃねぇとか関係あんのかよ」
一応今日は王宮に参内する予定なので、相応の衣装を身につけている。見れば身分ある貴族・騎士であると分かるはずなのだが、それも見分けがつかない程度の経験しかないと思われる。
「お、おい」
「よせよ。も、もうしわけありません。こいつ、シャンパーの出身で。孤児ってわけじゃないんです。お、俺らは良くお二人の事、存じてますから」
「申し訳ありません閣下」
「……閣下って……」
「わかったなら、弁えてくださいね」
王都の孤児出身者であれば、一度は彼女と面談したことがある年齢だ。リリアル学院の選抜を受けたか、受からない理由をすでに知っているということだ。
「残念ながら、リリアル生は十歳までの魔力持ちの子だけを受け入れているの。あなたは、魔力もないでしょうし年齢も成人に達しているでしょうから、仮に孤児出身であったとしても受け入れることはありません。それに、冒険者として身を立てたなら、騎士団の入団試験を受けるなり、兵士や衛兵として職に就くほうが良いと思いますよ」
「いや、俺は、竜殺しの英雄になりてぇんだよ」
海賊王や竜殺しの英雄になりたいという男の子の夢を語るのは別に構わないのだが、それとリリアルには何の関係もない。
「確かに、竜を討伐する機会があるかも知れないのだけれど、身に余る依頼を受けるのは命を確実に失う事になるわ。それも覚悟の上かしら」
「……も、もちろんだ……」
一瞬躊躇したものの、少年は大きな声で言い切った。
「なら、後ろの仲間の命もその賭けの代金にするわけね」
背後の仲間の様子を伺う少年。仲間たちはいつもこのような少年の夢を聞かされているのだろうか、やれやれと言った表情でありおよそ同意しているようには思えない。
「一人で出来る事には限りがあるし、人には向き不向きがあるわね。それに、誰からも名を知られるようなことって、余り嬉しい事ではないわよ」
少年は「は?意味わかんねぇ」と声には出さずに返事をしてくる。
「一度でも期待を裏切れば、その名声は地に落ちるってことよ。どんなに有名な英雄だろうが、王様、将軍だって負ければ地に落ちるのよ。そこから立ち直れるくらいの力がなきゃ本物とは言えないんでしょうけどね。あんたにはまだまだそんなことを語る資格はないと思うわ」
伯姪の歯に衣着せぬ言葉に、言われた少年はたじろぐが、周りは同意するように頷いている。
「耳に痛いわね」
「それでも、私もあの子たちもあなたを見限ったりすることはないわね。有りえないわ」
「そうね。そうだと有難いわね」
伯姪は「あなたの姉は絶対残るから問題ないわよ」と付け加え、彼女は微妙な気分になる。
「先ずは仲間との信頼関係を重ねて、依頼をきっちりこなして冒険者としての信用を得る事だと思うわ。それが、竜殺しに続く道よ」
「竜殺しへと続く道」
少年は納得したようだが、伯姪の言は微妙に嘘が含まれている。が、百パーセント嘘というわけでもないところが微妙である。
「お、俺……達、信用してもらえる冒険者になるように頑張ります。なぁ!」
「「「おう!!」」」
凹みかけた少年は持ち直し、仲間たちとのコンセンサスも生まれたようだ。小さな依頼から大きな依頼が生まれ、やがて大きな成果と評価に至ると彼女は考えている。それが、思えばなぜこうなったとかと思えなくもない
彼女の境遇に思えるのである。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
冒険者ギルドから川沿いに出て、一度、迎賓宮建設予定地の際にある『街塞』へと足を向ける。外構は土魔術を用いて凡そ構築してあるわけだが、そのまま居住できるようになるわけがない。
その為、内装や木造部分は王都の職人たちが構築することになる。その中に『自由石工』関係者が含まれているだろうが、その事自体は今の時点では意識しないようにする。完成後、何かしら仕掛けられているのならば、それこそ、王都と王国に敵対する勢力であると特定する証拠となりうる。
なので、今の時点においては特に気にせずに建設をすすめていく。
Eの字型の外壁と躯体に対して、中庭に面している側は基本的に木造で作っている。内装も床や天井は木材で加工している。また、無骨な人造岩石製の濠に面し王都内に向いている二面に対して、今工事が進んでいるのは迎賓宮に面している二面であり、ここは、先王時代の法国の建築家の城館をまねた瀟洒なやや赤みがかった砂岩の壁で形成している石積みの壁だ。
迎賓宮側の壁の強度は人造岩石と比べ劣るが、それでも小銃弾や小型の隼砲程度では破壊できない。そこまで敵が攻略している時点で戦局はかなり劣勢であるし、その時点でリリアルなら少数で斬り込みを行い始めることになる。守りを固める一方から、守りと攻めに別れての行動となるだろう。
防御優先の外向き壁と、景観も損なわない迎賓宮側の壁で印象が変わるのは当然であると言える。石積みはまだまだ時間がかかりそうであるが、彼女達の渡航には十分間に合う。また、こちらの面は迎賓宮に滞在するゲストの避難先や野戦病院的な遣い方をすることを予定している為、人造岩石の二面さえ内装が完成すれば、城塞としての機能は発揮できるので、問題ないとも言えるのだ。
「これ、王都から予算出ているのよね」
「王都と王国と王家ね。私たちの持ち出しは、魔力と人造岩石作成代程度ね」
外壁面の屋上は見張台兼銃座となっている。魔装銃だけでなく、三期生の魔力無組なら弓銃やマスケットによる射撃でも十分対応できるのではないかと考えられる。魔装銃が急速に装備されたのですっかり希薄となっているが、魔力を込めるだけ、撃つだけの役割分担も考えられていた。
射撃が得意な魔力無の三期生もいる可能性はなくはない。また、仲間意識がより高いであろう三期生達には、そういった工夫もあってよいのではないかと思われる。
「歯止めが利かなくなるので、魔力無の子たちは三期生が最初で最後ね」
「必要であれば中等孤児院出身の兵士希望者を領都が建設されたなら衛兵や領兵として雇い入れてもいいしね」
「鍛冶屋に宿屋に水車小屋……いろいろ必要になるわ。この建築経験が生かせればいいのだけれど」
伯姪は内心「街全体が人造岩石製の要塞のような街並みになるかも」と思ったのである。
後日、一期生を交代で『街塞』を全員見学させ、必要な備品関係、寝具や台所用品、保存用の食料や水瓶(魔石仕様)をどの程度必要となるか考えさせることにする。これも、これからリリアルの決定事項を分業していくための課題を与える機会であると彼女は考えていた。
今まで、彼女が考え用意し与えるだけの関係であったが、今後は機会があるごとに権限と責任を与えて、教育する機会を増やしていきたいと考えていた。とはいえ、事務方を担っていた人間がほぼ渡海するので、例えば赤毛娘が姉と調子に乗って暴走しないかなど……気になる点はあるのだが、それも失敗を糧にすればよいかと思う事にする。
「何事も、してみせて言って聞かせてやらせてみることが大事なのよね」
「そうね。仕事が増えれば、あなたが抱え込めることも限界があるわけだし、どこかで任せて試す必要はあると思うわ」
伯姪も不安なことは彼女と同様である。が、リリアル生の中には「院長先生ならどう考えるか」という規範があることを知っているので、彼女自身ほど不安とは考えていなかった。
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