第554話-2 彼女はウォレス卿に指導を乞う

「へぇ、流石妹ちゃん」

「……なんてことないわよ、このくらい……」


 姉に声をかけられ、どや顔で返す彼女。そして、ウォレス卿は伯姪に投げ、

これも上手に捕らえ即座に振込み返す。


「結構簡単ね。楽しいわ」


 少しずつ距離を離しつつ、二対一のキャッチ&リリースが繰り返されていく。

やがて、距離は最初の倍ほどになる。かなりクイックに遣り取りするので、一人で

相手をするウォレス卿は少々肩で息をし始めた。歳だろうか。


「は、はっ、お二人とも呑み込みが早い」

「恐れ入ります」

「卿の教え方がお上手だからですわ」


 と、余所行きの言い回しの伯姪である。隣を見ると、赤毛娘が少々手こずって

いるものの、他のメンバーはかなり様になっている。赤毛娘は力加減が難しい

ようだ。その分、相手をする騎士は右往左往している。正直すまん。




 実際、どんな感じで試合をするのか、少年用のルールでお試しすることに

なる。成人用は100×50mの大きさだが、少年用は四半分の50m×25mとなる。

人数半分で、面積は四分の一なので攻守が忙しそうではある。


「では、そちらから一人門衛をお借りして、五対五で模擬戦をしましょう」


 あちらには青目藍髪を門衛に付けることにする。こちらは、彼女と伯姪、

茶目栗毛と赤目銀髪、そして……


「あ、あたし!! やりたいです!!」

「えー やめておきなよぉ」

「いいじゃん。先生!! 後輩に教えるのに、実際教わってないと話しにくい

です!!」


 赤毛娘立候補。黒目黒髪は止めたいようだが、どちらかというと巻き込まれたく

ない要素が強そうだ。


「そうね、あなたにも教官役をお願いするでしょうから、入ってちょうだい。それに、

四セットあるから、途中交代で冒険者組は全員参加してもらうから、そのつもりでね」


 黒目黒髪が絶望した顔になる。いや、魔力量一期生最大なのだから、魔力

纏いと身体強化だけで問題ないよね? 護らせたら最強のはず。


「では、戦闘開始の形式から」


 『ドロー』と呼ばれる、試合場中央の円内で代表一人づつが杖の籠の背を

合わせるように革球を挟み合う形で立ち会う。そして、開始の合図とともに

球を弾くなり落とすなりして、球を得た側が攻撃、持っていない側が防御と

なり試合が進んでいく。


 ウォレス卿と伯姪が杖を合わせてドローを行う。


「これは、経験が必要です。相手の力の出し方や杖のコントロールもです」


 開始の合図とともに、ウォレス卿は伯姪の杖の籠を上手に使い、自分の味方

の方向に球を飛ばした。それをすかさず捕球され、騎士は突進し始める。

どうやら、軽く身体強化をしているようで、上手に割って入ることができないまま、

『門』に突撃される。


「撃たせなさい!」


 最初の門衛は彼女が務めている。一番後ろから試合場全体を見たいという

ことと、四セットとも違う位置で試合に参加したいと考えていたからでもある。


「そらあぁ!!」


 正面から高速で革球が彼女の護る『門』に向け投げ込まれる。取りにくい

足元を狙った一撃。だが彼女の持つ、門衛用の大きな籠ならば、どうとでもなる。


PASHU


 鋭い風切音をさせた球であったが、彼女の魔力で強化された視力と反射

神経にとっては大した速さではない。初手と言う事で、特に癖のない魔力での

強化もほぼない投射であったから、簡単に捕球することができた。


「むぅ、お見事」

「で、この後はどうすればよろしのでしょうか?」


 どうやら、長い時間保持するのは反則のようで、四数える間に、味方の誰か

に球を投げなければならないのだという。彼女は、一先ず伯姪に預けること

にする。


 すると、相手はこちらの四人にそれぞれ一対一になるように貼り付き、

容易に球を出させず、持たせたとしても自由に動けないように位置取りを

上手にし始める。


『お、これが試合って奴か』

「ええ、経験の有無ということね」


 彼女は伯姪に視線で投げる方向を示し、魔力で強化した腕力で思い切り

誰もいない空間へと球を放り投げた。


「「「なっ!!」」」


 誰もいない空間の球を確保するため、最も近い騎士が駈出す。が、


 PACH!!


 空中で何かに弾かれたように『球』が一対一から外れた伯姪に向けて

飛ばされていく。


「任せて!」


 伯姪は杖を構え、籠の背で思い切り弾かれてきた球を叩き、『門』に向け

叩き込んだ。


PASHU


「おっ、入っちまった……」


 まるで、飛んできた蠅でも叩き落したかのように、杖の籠に革球を入れる

青目蒼髪。うっかり入っちゃった!!


「何やってんのよあんた」

「お、俺、門衛だから。自分の仕事してるだけだからぁ!!」


 試合に出ていない相棒の赤目青髪から罵声が飛び、慌てて言い訳し始める

青目藍髪であった。初得点ならず!! 伯姪が悔しそうに膝をつく。


「いいじゃない!! 速攻の一つになるなら、これも価値があるプレーよ」

「あー かっこいいなー あたしも、パシッてしたい、こう、パシッと」

「お姉ちゃんもやりたい、カッコいいから!!」


 確かに、リリアルにおいて戦闘は隠密裏に実行され、余程でない限り

冒険者組の実戦での動きをみる事は、同じ一期生同士でもあまりない。

訓練においては、ひな形通りの操練か試合形式も最近はさほど行うことも

ない。特に、二期生三期生がみることはまずない。


 彼女や伯姪の動く姿を見るのも、初めての学院生も少なくない。なので、

三期生年少組からは、なにがどうなったのかと声が上がる。


「は、早い……」

「なにがどうなったの?」

「見えなかったからわからないよぉ」

「「……」」

 

 魔力を持つ身体強化のできた者は即ち沈黙している。これは、ウォレス卿

一行も同様。


「は、随分と鍛錬されたようですな」

「ええ。冒険者としてそれなりに活動しておりますから」

「……いえ、『ラ・クロス』の鍛錬ですよ。でなければ、あのような送球や捕球を

行えるわけがない」


 杖を受け取ったのはほんの少し前であるし、反則以外のルールも良く分からない

というのが彼女たちの実際の状態なのだが。動きが良いのは、冒険者組なので

当然であると言える。


「戦場で磨いた魔術と戦勘でしょうか。みな、これが初めてよね?」

「「「はい!」」」

「あたしも、球に触りたい!!」


 お、女の子が大声で言ってはいけません!!


 


 その後、メンバーを入替えなら四セット各十分の模擬戦を楽しんだ。

観戦していた二期生三期生も、最初こそ戸惑っていたものの、一対一で

対決するところが気に入ったのか、未だ剣を持たせてもらえない三期生

年少組だんすぃを中心に、自分たちもやりたいという声が沢山上がっていた。


「この分なら、本国にお越しの際は親善試合など組む事も出来るやもしれませんね」


 ウォレス卿もリリアルがそこそこできると判断したのか、そのようなことを

口にした。彼女は「王弟殿下次第ですね」と無難に答える事にしたのである。






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