第553話-2 彼女は彼女は『ラ・クロス』のルールについて確認する
参加するメンバーを確認する。
「成人規則では攻撃手・遊撃手・防御手各三人に、門衛一人の合計十人に予備選手が最大十六人まで許される事になっているわね」
「随分と大勢で参加できるのね。それだけ怪我人が大勢出る前提なのかもしれないわね」
戦争においても、緒戦から全戦力を投入することはない。損耗の度合いを計算し、随時戦力を入替えていくことになるのだろう。
「ニ十分ごとに休息を入れて全四回を一試合とするようね」
「少年ルールだと半分の時間なのよね」
「それと、少年用は部隊規模が半分になるようね」
試合場も半分の大きさ、選手の数も半分となる。門衛一人と、あとは全員攻撃兼遊撃兼防御手ということになるのだろうか。
「一先ず、少年用規則で学びましょうか」
「反則の規則が結構違うわね。まあ、成人は体も魔力も防具も充実しているから、その分荒っぽいんでしょうね」
交代要員が正選手の二倍近くいる時点でお察しである。
「
「……当然よね」
杖を用いて闘争を始めた時点で攻撃した側が退場となる。その時間は、審判が判断するが、一分から数分の範囲で悪質であるほど長くなる。つまり、少数で守る側が不利になる時間があるという事だろう。
「それから、最初から杖を突き出した状態で相手の進路を妨げたり、体を杖で押さえつけることは反則です。ただし、杖を持って杖を押さえることは問題ありません」
「つまり、杖術の技を使えと言う事ね!」
多分違います。少年用規則は、成人用よりも体に対する打撃を防ぐことを配慮した優しいルールになっている。
「ということは……」
「成人用規則は、結構当たりが厳しいのよね」
一つの球を取り合う競技であり、杖でその球を投げ合い、奪い合い、敵の『門』の中にその球を投げ込む事で得点を得るという試合となる。
球を取りこぼしたり、奪う際には成人の場合、その球の周囲3m以内においては相当の力技が認められる。
「
「それはおんなじじゃない?」
「後ろから突き飛ばしてはいけません。球から離れて杖で押してはいけません」
「……杖でなく腕や肩とかなら良いってことね」
「そうね。その為の防具みたい」
また、球から3m以内であれば選手同士の押し合いへし合いは問題ないが、それを離れた場合は反則となる。
「杖を振り回したり、杖で敵の頭や首を叩いてはいけません。ただし、球を保持している選手の小手を叩くことは認められます」
「つまり、杖術で戦えと言う事ね」
「長柄の石突を使った技の応用でも可ね」
杖を握る両腕の間に石突を叩き込み、跳ね上げて杖ごと弾き飛ばすことも問題なさそうだ。たぶん。
勿論、杖で足を払ったり、押さえつける事も不可だ。また、球を持たない選手に体をぶつける事も反則となる。
「要するに、球を持っている選手に対しては、自分の杖で相手の杖を叩いたり、体を寄せて抑え込んだり、技を仕掛けるのはOKってことよね」
「でも、杖を手放すのは反則みたい。投槍のように使用したりも当然ね」
ただの木製の杖であっても、投げればそれなりのダメージとなるだろう。
「そして、魔術の仕様に関しては一定のルールが適用されるだけ」
「なにそれ」
「球を保持して四つ数える以上の間、動かない場合はその時点で反則となり、相手の球から試合再開になるわ」
「ああ、長い時間詠唱するような魔術を使えなくしているわけね」
「移動しながら詠唱する分には問題ないのでしょうね。それでも、相応の技量が求められることになるわね」
オリヴィが用いる精霊魔術=魔法の類には、古帝国語による詠唱をそれなりに行うものが存在する。魔力が多く、また精霊の加護に恵まれたオリヴィであれば、簡略した詠唱もしくは無詠唱で発動することも可能だが、並みの魔術師ではそれは難しい。
リリアルで用いる魔術は『身体強化』『魔力纏い』『気配隠蔽』が主であり、一つを数える間もなく一期生は発動できるくらい鍛錬している。その継続時間や強化の精度はまちまちだが。
「それで『賢者学院』でも好まれているのかもね」
「運動能力だけでなく、魔術を用いて長時間運動し続けることができるのであれば、魔術師としても騎士としても優秀でしょうからね。杖も魔術を用いる際に、能力を強化する性質を持つ仕様になっているかもしれないわ」
「それは、見てのお楽しみじゃない?」
魔力量だけでなく、その精度、どのように能力を配分するか、誰がどのように試合を運ぶのか選択肢は沢山ある。とはいえ、今まで受けた討伐や調査の依頼の際に常に考慮していたことでもある。
「でも、これってあなたやあなたのお姉さんってとっても有利じゃない?」
「姉は燃費が悪いのよ。とても最初から最後まで活躍できるとは思えないわ」
「なら、最初か最後の回に出てきて暴れ回る感じかしら」
交代要員が沢山いるのは、その辺りの魔力量の問題もあるだろうか。少なくとも、冒険者組は一時間二時間で魔力が枯渇するようなペース配分をする事はあり得ない。彼女の場合、それは日単位のことになるのだが。
また、中央の線を挟んで攻撃時には敵陣に侵入できる最大人数は六人、防御時に自陣に残れる最大人数は門衛を除き六人までという制限も成人用には存在する。少年用はそもそも五人しかいないのでそれはない。
「魔術を使ってどこまで相手を攪乱できるかかしらね」
「……魔術師同士であればそうなるかな。それに、杖を用いた組技とかも必要かもね。杖を使って足払いはいけないけど、組まれたら払わないといけないじゃない? 腕で押すのは問題ないみたいだし、杖で杖を絡め捕るのも相手の体に当てなければいいんだからさ」
魔術寄りの彼女、杖術寄りの伯姪。とはいえ、最初は球を門の中に入れ合うという競技を楽しむ事にしたい。
「そもそも、『魔力壁』で門を塞いだらどうなるのかしらね」
「それよりも、杖を魔装糸で補強して魔力を纏えるようにするなら、『飛燕』も使えると思うのよね」
「「……何か違う競技よね……」」
どうやら、選手を直接魔術で攻撃することは反則となっている。当然か。しかし、空中を飛翔する球に魔術を当てたり、足元の地形を変化させ転ばせたり、転がる先に水たまりを作って球を止めるようなことは許容されている。つまり、攻撃的魔術は不可、防御や補助魔術は可という判定となる。
「空飛んでもいいのよね」
「高さ制限は……なさそうね。魔導具や魔石の使用は不可みたい」
何でもありになりかねないので、杖を魔術の補助具として活用することは可能であるが、魔導具や魔石の類を用いて加工することは認められない。魔装糸や魔装布は……セーフと解釈する。
どうやら、本家とは相当異なる『ラ・クロス』になりそうだと二人は思うのである。
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